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コラム

「 非正規労働とジェンダー 」江原由美子(2016.8.23)

江原由美子 首都大学東京 都市教養学部教授 

 日本では、パート労働者等の非正規労働者の賃金は、非常に低い。正規労働者と比較したパートタイム労働者の時間当たり賃金は、正規労働者を100とすると、欧州各国では70から90であるのに対し、日本では50程度と、非常に大きな差がある。日本社会でこの差が作られてきた背景には、労働者は「自分の給料で自分や家族の生活を維持する者」(稼ぎ手・扶養者)と「自分の給料では自分や家族の生活を維持する必要がない者」(被扶養者)に大きく分けられるという二分法的な考え方が、存在する。この二分法によって、正規労働者=長時間労働者=稼ぎ手・扶養者、非正規労働者=短時間労働者=被扶養者という大枠の論理が形成され、その結果、公正さを欠いた賃金体系が維持されてきたのである。
 無論この二分法は、「男性は仕事、女は家庭」という性別役割分業観と、対応している。このように日本社会の性別役割分業観は、「人間には、自分や家族の生活を自分の稼ぎで維持する必要がある者と、その必要がない者がいる」という二分法を正当化してきたのであり、結果的に短時間労働者の低賃金を正当化してきたのである。「男は仕事、女は家庭」というジェンダー観はまさに、短時間労働者差別を生みだしてきたのだ。
 ライフスタイル選択の自由や、働き方の多様化が叫ばれて久しい。ライフスタイルの自由という観点から言えば、就業だけでなく、家庭専念等多様な生き方があって良い。また、ワークライフバランスを実現するためには、短時間労働等多様な働き方があって良い。けれども、短時間労働者への差別を正当化する、「人間には、自分や家族の生活を自分の稼ぎで維持する必要がある者と、その必要がない者がいる」という性別役割分業を前提とした労働観=ジェンダー観だけは、「女性の貧困化」を抑止するためにも、なくしていかなければならないと、強く思う。

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