開館45周年記念理事長インタビュー(第1回)

開館45周年記念理事長インタビュー(第1回)

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 開館45周年記念理事長インタビューの第1回は、全国に先駆けて地域のジェンダー・ギャップ解消に取り組まれてきた兵庫県豊岡市の中貝宗治前市長です。
 日本海に面した豊岡市は兵庫県の北部に位置し、城崎温泉でも有名です。兵庫県でもっとも大きな面積を占める市で、日本最後の野生のコウノトリの生息地でもあり、現在も保護や繁殖、共生に向けた取組が実施されています。
 現在の豊岡市は、2005年に1市5町が合併してできました。中貝さんは、合併前の2001年から2021年まで豊岡市長を5期務められました。新「豊岡市」初代市長として、自立した地域づくりや世界の人々から尊敬され、尊重されるまち「小さな世界都市 -Local & Global City- の実現」を目指して取り組んでこられました。
 近年、急速に人口減少が進む同市において、その要因は若年層の流出、とりわけ若い女性が大都市へ出て行ってまちに戻ってこないことだと気づいたそうです。そして若い女性に選ばれるまちとなるための高い価値、世界に通用する文化的価値を創造することができるかどうかが鍵であると考え、その対策として「豊岡に暮らす価値の創造、とりわけ多様性を受け入れ、支え合うリベラルなまち」を実現するためには、ジェンダーギャップの解消が重要な課題であることを議会や市職員、市民に対し繰り返し訴えました。そして、2021年3月には職場、家庭、地域、学校を含むまち全体のジェンダーギャップ解消に向けた取組を進めるため「豊岡市ジェンダーギャップ解消戦略」を策定しました。

— ジェンダーギャップの解消ということ、その重要性を職員の方に伝えて共有するということで工夫されたこととか、御苦労などを教えていただけますか。

中貝:ジェンダーギャップの解消が重要だと職員に伝え、共有するために一番力を入れたのは「危機感の共有」ですね。危機をリアルにみるということができないと、「男女共同参画なんて言わなくても、町は動いているのに」みたいなことになりますから。なぜこんなことをするのかという「意味と論理」をちゃんと伝えるということです。
 しかも、始めから全部わかった上でやろうと言ったのではなく、僕自身も走りながら視野が広がっていったという面があります。時代も、僕自身の認識も、どんどん変わっていますので、発見も含めてそれを絶えず伝えていくということですね。
 それから、どのように伝えれば相手のハートに響くか。ジェンダーギャップのことに限らず、政治家として自分自身に課してきたことですが、「より簡潔に、より印象的に、それでいて論理的であり、心理的である」という伝え方を絶えず意識してきました。
 そのうえで、絶えず狼煙を上げて意識をチクチクする。「一度言って終わり」ではなくて、職員に対しても市民に対しても、広報誌をはじめいろんな場面で「大変だ、大変だ」と言う。何度も大変だと言っているうちに、見慣れない景色がだんだん「そうだ、大変なんだ」と分かってくる。そうやってある程度動き出すまでは、とにかく大変だと言い続ける。

中貝宗治 前豊岡市長

— 孤立することなく、組織をあげて共通の方向に向かわせるためには、どのようなリーダーシップが必要ですか。

中貝:方向を示すだけではなく、担当職員を守ることも大切です。トップには、なかなか直接の風圧はこないんですね。市民のむき出しの反論が市長にくることはそうないですし、市役所の職員だって、僕のところにそんなことは言ってこないですよね。どこかに行くかというと、カウンターにいる担当のところに来るんです。それを守らなければいけない。組織を守るのはトップの大きな仕事ですから。
 特に、何かを変えようとして新たに動き出したときのトップの仕事は、これをやれと言うだけではなく、市民も含めて一緒にやろうと思ってくれる人の風除けになることだと思います。それがなければ、担当部署がもろに風圧を受けて潰されていくことになります。
 もうひとつトップとして重要なことは、「僕たちの町はできる」と勇気づけることだと思います。「豊岡の強み」は、大きな物語を描き、実現のために地道な努力を続けられることです。コウノトリの野生復帰がそうです。1965年から有機農業とか湿地再生、人材育成、環境経済といったことをかなり戦略的にやってきました。今、日本中で300超のコウノトリが飛びまわっていますが、こんなに時間をかけてやってきたわけです。
 ジェンダーギャップは人類が農耕社会をつくったときから始まっているらしくて、そうなると1万年の歴史をひっくり返そうという話でしょ。そんなことできるのかと、みんな怖気づいてしまうのですね。コウノトリのことを引き合いに出しながら、職員や市民に対して「豊岡はできる」と励まし、勇気づけていくこともトップの仕事だと思います。

中貝宗治氏と萩原なつ子の写真

中貝 宗治(なかがい むねはる)

1954年豊岡市生まれ。京都大学法学部卒業。78年兵庫県庁に入庁。87年大阪大学大学院経済学研究科経営学専攻前期課程修了。91年兵庫県議会議員に当選し、3期務める。2001年から21年まで豊岡市長を5期務めた。21年に一般社団法人豊岡アートアクションの理事長に就任。16年から関西学院大学大学院国内客員教授、22年から福知山公立大学客員教授に就任。