開館45周年記念理事長インタビュー(第3回)

開館45周年記念理事長インタビュー(第3回)

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 開館45周年記念理事長インタビューの第3回は、社会福祉法人大阪ボランティア協会の早瀬昇理事長です。
 早瀬さんは、1973年に大学入学と同時に「大阪交通遺児を励ます会」の活動に参加し、以後、様々なボランティア活動を続けて来られました。地下鉄のバリアフリー化を進める「誰でも乗れる地下鉄をつくる会」の活動は、大阪における日本初の地下鉄エレベーター設置につながりました。大学卒業後、1977年から翌年にかけてフランス、ベルギーの社会福祉施設でケアスタッフとして携わり、1978年に大阪ボランティア協会に就職します。1995年の阪神・淡路大震災時には、全国の市民団体や経団連1%クラブと連携し、日本初の災害ボランティアセンターを担う「被災地の人々を応援する市民の会」を結成しました。このような長年の活動が評価され、2019年には大阪ボランティア協会理事長に就任されました。
 大阪ボランティア協会は、ボランティア活動や市民活動を通じて、市民が主体となった社会づくりをめざし、ボランティアコーディネーションや市民学習・研修等の学習支援、災害・復興支援などを行っています。
 今回のインタビューでは、ボランティア活動におけるジェンダー問題や、ボランティア活動を通して得たことについて伺いました。

— ボランティア活動におけるジェンダー問題にはどのようなものがありますか。

早瀬:令和3(2021)年度社会生活基本調査によると、ボランティア行動者率(※1)はずっと男性より女性の方が高かったのに、初めて女性が男性を下回りました。その背景にジェンダー問題があると思います。女性は外で行うボランティアではなく、家事や育児、介護など家庭で世話をしなくてはいけなかったからではないでしょうか。今回の調査結果は、新型コロナウイルス感染症が影響していることが考えられます。
 ボランティアというと福祉系の活動をイメージされがちですが、少年野球などのスポーツ指導の分野では男性の参加が多く、活動時間や日数もかなり長くなっています。他にまちづくりや地域活動、自治会、安全防災関連も男性の参加が多いです。一方で、高齢者・子ども・障害者対象といったケアワークのボランティア活動には女性が多く携わっています。また、ボランティアというと女性が非常に多いんですが、団体のトップは男性が多い。意思決定の場には女性が少ないことや、ケアワークは女性がするものという感覚を変えなくてはいけません。
 私が講演に出向くときには、聴衆の男女比が重要で、女性が多いと応答的になって盛り上がります。話すと笑ってもらえる。男性はなかなか笑わないんですよ。これもジェンダー問題です。男性の方が感情を出してはいけないという刷り込みがあって、周りを気にしすぎるんじゃないかと思います。

(※1)10歳以上人口に占める行動者数の割合。

早瀬 昇 大阪ボランティア協会理事長

— ボランティア活動の世界に入って、得たことを教えていただけますか。

早瀬:特に男性は、いい大学に行って、いい会社に入れば、いいパートナーを得られて幸せになるという価値観に染まりやすいと思います。熊谷晋一郎さん(脳性麻痺の障害を持ちながら小児科医・科学者として活躍)は、障害とは依存する場や機会が少ないことで、依存する先をたくさん持つことで自立を高めると言っていますが、なかなかそういう発想を男性は持てません。私もそういうところがありましたが、障害のある人たちと関わったことで、価値観が変わりました。脳性麻痺の方と出会ったとき、最初の頃は言語障害のため何を言っているのかよくわからなかったのですが、すごく主張をしてこられる。慣れていく中で、彼らが一人ひとり主体的に物事を考えていることを知りました。ケアを受ける立場ながらキチンと主張するという姿勢が私の価値観を変えました。ある程度自分の中に強さがないと、他者に頼れません。自己肯定感が低くなってしまうと、周りに頼れないし、辛い。人として自立するということは、うまく人に頼れたり、弱みを見せられたりすることなのだと思います。
 Google(グーグル)社の「心理的安全性が高い組織は最も生産性が高い」という調査結果がありますが、あの心理的安全性の一つのポイントは弱みを出せることなんです。弱みを出せないとパートナーシップは作れませんからね。弱みを攻めるんじゃなくて、お互い弱みを開示しながら、尊重しあうような関係性を作らなくてはいけない。そのあたりは教えてもらいました。
 私は人間として色々な人と関われることの意味や、実は人に頼れるということが結果的に自分自身を豊かにできるとか、障害のある人に教えてもらったことがすごく多くあります。人との関わりにおいてはいい天職を得たと思っています。だから、多くの男性、もちろん女性もボランティア活動に参加して本当の意味でのジェンダー平等の社会になることを望んでいます。

萩原なつ子と早瀬 昇氏の写真

早瀬 昇(はやせ のぼる)

1955年大阪府生まれ。京都工芸繊維大学工芸学部卒業。78年社団法人大阪ボランティア協会(1993年に社会福祉法人に組織変更)に就職。79年大阪府立大阪社会事業短期大学(現大阪府立大学社会福祉学科)専攻科修了。96年に日本NPOセンター常任理事に就任。2012~18年、代表理事に就任。19年から大阪ボランティア協会理事長、21年から23年まで同志社大学政策学部客員教授に就任。