&NWEC 国立女性教育会館を上手に活用するためのWebマガジン[アンド・ヌエック]

男女共同参画関連イベント等参加報告

【(一財)経済広報センター】日独シンポジウム「働き方改革の未来~人に寄り添うデジタル化とは」(開催:2019.5.24)

 少子高齢化やダイバーシティへの対応など共通する社会課題をもつ日本とドイツ。両国の企業から登壇者を招き、働き方改革とデジタル化について意見交換を行ったシンポジウムの様子をレポートします。

「働き方改革 × デジタル化」というと何を思い浮かべますか。
 ICTを活用した多様な働き方の実現、通勤時間削減によるワークライフバランスの向上、といったプラスのイメージ、もしくはどこでもつながってしまうために制限なく働くこと、ストレス増加への懸念もあるでしょうか。
 人の働き方にデジタル化推進がどのような影響を与えるのか、これはドイツでも関心が高いテーマです。そしてドイツと日本は少子高齢化やグローバル化、多様性(ダイバーシティ)への対応など共通の社会課題を抱えています。
 本シンポジウムは、ドイツと日本の優良事例として数社の企業の担当者が登壇し、日独の共通点や違いをふまえつつ、実務から働き方改革とデジタル化について提案を行う機会となりました。前半はドイツ・ティセンクルップ最高人事責任者のオリバー・ブルクハルト氏の講演、後半は武石教授のモデレートによる、両国の企業・人事責任者を交えたパネルディスカッションです。

 ブルクハルト氏は、ティセンクルップ社の概要(200年の歴史があり、女性従業員割合が15%、従業員の国籍は140カ国など)につづき、グローバル化のインパクトを人口変動、デジタル化、ダイバーシティの「3D(Democracy、Digitalization、Diversity)」と表現。その環境のもとで、人を中心にした働き方について、企業風土、リーダーシップ、柔軟性の3つをキーワードとしてあげ説明、具体的には企業風土について、
 ・すぐに試して早めに失敗するのを許容してイノベーションを産みやすい風土(Try fast, fail fast)、
 ・恐れずになんでも話せる雰囲気に(speak-up culture)、
 ・組織のフラット化(Flat hierarchies)、
 ・柔軟性のあるプロジェクトベースのチームマネジメント(Flexible project movement)
 
 リーダーにもとめられるのは「ボス」ではなく「コーチ」であること、すなわち
 ・変化を理解し受け止めること、
 ・その変化をみなにわかりやすく説明すること、
 ・ひとりではなくみんなで変化をつくりだすこと、
と解説しました。

 デジタル化をおそれることはない、変化はよいものをもたらす、楽観的にとらえ、多様性を恐れない組織風土に、とメッセージを伝え、講演をしめくくりました。

 武石恵美子教授(法政大学キャリアデザイン学部)のモデレートによる後半のパネルディスカッションでは、ブルクハルト氏に加え、ドイツ・ダイムラーベンツ社の傘下にある三菱ふそうトラック・バス、および日本側企業(トッパン・フォームズ、日本ユニシス)の人事担当者が登壇しました。
 各企業でのダイバーシティ、ワークライフバランス推進といった働き方改革への取組、デジタル化への対応や方針の紹介につづき、日独の違いなどについて意見交換が行われました。

 武石教授が後半のパネルディスカッションの冒頭で示唆されたように、ドイツの課題は第四次産業革命とデジタル化の推進を意識してどのように働き方を変えていくかである一方、日本はSociety5.0を意識しつつも長時間労働など具体的な働き方をめぐる課題にとりくんでいる、という違いがあります。日本がドイツのようにデジタル化に対応した組織について考えるには、超えなければいけない壁がまだまだあるということなのかもしれません。ドイツは、一部労組で週28時間の時短勤務の導入が実現し、2年以内であれば時短から週35時間の正規職員へ復帰できる権利が得られるなど、労働時間の柔軟化がすでに進んでいます 。加えて、シンポジウムでは、企業が健全であっても社会が健全でないといけない、社会的コンセンサスや枠組み、倫理を巡る議論がかけているでは、という指摘もありました。これは日本にもあてはまることと思います。
 「人に寄りそうデジタル化」を日本がどのような理想に向かってつき進むべきか、それが多様性の促進にいかなる効果をもたらすのかを考えるにあたり、ドイツからたくさんの宿題をつきつけられた講演でした。

情報課(併)研究国際室専門職員 佐野敦子

 佐野専門職員は、平成29年度より科学研究費の助成 を受け、ドイツにおけるジェンダー平等とデジタル化について調査・研究を行っています。テーマに関連する話題を、このコーナーで随時紹介する予定です。

--------------------------------

  2 「ドイツのICT推進と女性の社会的包摂—グローバル化とジェンダーのパラダイム転換」日本学術振興会: 科学研究費助成事業 若手研究(課題番号:18K18301)