開館45周年記念理事長インタビュー(第5回)

開館45周年記念理事長インタビュー(第5回)

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 開館45周年記念理事長インタビューの第5回は、評論家の樋口恵子さんです。
 樋口さんは、1932年生まれの90歳。中学時代の結核をはじめ、いくつもの病気やけがを乗り越えて、現在も評論家として執筆や講演などの活動に積極的に取り組んでいらっしゃいます。
 樋口さんは、大学卒業後に新聞社や企業で勤務した後、1971年に評論家として独立。1983年には「高齢社会をよくする女性の会」を設立しました。以来、東京家政大学教授に就任し、内閣府男女共同参画会議議員、男女共同参画会議・基本問題専門調査会委員、「仕事と子育て両立支援専門調査会」会長、厚生労働省社会保障審議会委員、社会保障国民会議委員など、国の審議会等の委員を歴任されています。現在は、NPO法人「高齢社会をよくする女性の会」理事長、東京家政大学名誉教授、同大学女性未来研究所名誉所長を務めていらっしゃいます。
 また、1989年の新語・流行語大賞を受賞した「濡れ落葉」の外、「人生100年時代」「すべての道はローバ(老婆)に通ず」などその時代が抱える課題を端的に表現した言葉を発信し続けてきました。さらに、女性の貧困化「BB(貧乏ばあさん)」防止の必要性や、平均寿命と健康寿命の間の約10年を「ヨタヘロ期」と命名し、自身のヨタヘロ体験を綴ったエッセイ集を出すなど、数多くの本の執筆もされています。
 今回のインタビューでは、これからの社会づくりに必要なことや様々な活動の原動力となるものについてお話を伺いました。

— 今後の社会づくりに必要なこととは、どのようなことだとお考えですか?

樋口:最近は高齢者関係のことばかりやってるので、その側面からお話します。長寿というものは平和の賜物ですので、私はいつもそこに立ち返って考えています。
 日本は、女性は世界一、男性も世界二位、男女合わせれば世界トップレベルの長寿の国です。昭和20年、当時の厚生省が国政調査を実施したとき、平均寿命が、男が約23歳程度だったそうです。本当に驚きました。私は、戦火によって平均寿命を縮められた世代の方たちの魂が安らかに眠れることを祈るという意味でも、社会づくりが必要だと思っております。それは、残念ながら過去に亡くなった方にも、まだ生まれていない方にもできないことです。 
 私も90までなんて生きられっこないと思っていたら、この間90歳になって、自分でもびっくりしています。長生きできることは平和と皆様の勤勉による一定の豊かさのおかげです。
 平均寿命で見ると、女性は男性より寿命が6年長いです。男女の人口の比率は年齢が上がるほど女性が多くなります。65歳以上の男女比は4対6、85歳だと女性は男性の約2倍います。また、85歳以上になると、死別して独身になる人も増えます。今の社会を家族が少なくなっていくファミリーレスな社会「ファミレス社会」と私は呼んでいます。戦前は婚姻率が高い国でしたが、最近は、50歳通過時の独身率は、男性は約25%、女性は約16%です。昔、保育所をたくさん作っていれば、もう少し働きやすい社会ができていれば、少し違っていたかもしれませんね。昔は保育所をたくさん作ってくださいと言っても、「そういうことをするから子供が産まれないのだ」と反対され、「3歳までは母の手で」という3歳児神話が語られた時代でした。母親が仕事をもっているだけで白い目で見られたあの時代にきちんと保育所をつくっていたら、もう少し出生率の高い国になっていたと思います。意思決定の場に将来を見据えた政治家や官僚がいなかったということです。

樋口恵子 高齢社会をよくする女性の会理事長

— 大事なことについて会をつくったり、替え歌をつくったりされた樋口さんの原動力となるものは、一体何だったんですか?

 野次馬精神!野次馬精神は必要ですね。20年前に都知事選にでました、それまで選挙に出ることは避けてきたし、やめようと思ってたんです。しかし、当時の知事による女性に対する敬意の無い発言、命の重みを少しも考えない発言を許すことができず、世の中から抹殺されてもいいという覚悟で出馬しました。思いがけず、多くの票をいただいき、共感してくださる人が沢山いたことが、本当に有難かったです。NWECも野次馬精神をもって頑張ってください。

萩原なつ子と樋口恵子氏の写真

樋口 恵子(ひぐち けいこ)

1932年東京都生まれ。東京大学文学部美学美術史学科卒業。東京大学新聞研究所本科修了。その後、時事通信社、学習研究社、キヤノン株式会社を経て、評論活動に入る。1986~2003年3月東京家政大学教授を務める。現在、評論家、NPO法人高齢社会をよくする女性の会理事長、東京家政大学名誉教授・同大学女性未来研究所名誉所長。