開館45周年記念理事長インタビュー(第7回)

開館45周年記念理事長インタビュー(第7回)

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 開館45周年記念理事長インタビューの第7回は、株式会社wiwiwの山極清子会長です。
 山極さんは、資生堂初の女性人事課長に就任して資生堂のダイバーシティの礎を築き、株式会社wiwiw代表取締役社長を経て、現在会長を務めています。これまで一貫して、ダイバーシティ&インクルージョン、女性活躍推進、女性のキャリア、仕事と育児・介護との両立等、働き方改革に取り組まれてきました。
 株式会社wiwiwは、2001年、育児休業中に能力アップをはかる資生堂の社内事業に始まり、これを継承し、2006年に設立されました。“多様性を活かすことが、経営パフォーマンス向上につながる”という知見に基づき、現在では、ダイバーシティ&働き方改革、女性活躍、介護や治療と仕事の両立推進を支援しています。またwiwiwは、オンラインの総合学習プラットフォームを提供するグループ会社において、ダイバーシティ推進においてもデジタルを活用した効果的な教育、研修を提唱しています。
 今回のインタビューでは、女性活躍・ダイバーシティ推進の課題について伺いました。

— これまで女性活躍を推進されてきた中で、社会・企業が変わってきた点となかなか変わらない課題について教えてください。

山極:女性活躍とは、出産後も就業継続する女性が増えるだけでなく、女性が、重要な仕事を任される権限ある地位に就き、組織のパワーバランスを変え、組織全体を活性化することと考えています。
 確かに、男女雇用機会均等法が施行された1986年と現在を比べると、管理職に占める女性の割合は増えました(※1)。実際に企業を訪問してみると、女性管理職が増えていることを実感できます。また、女性活躍推進法に基づく行動計画策定についても、最近は女性管理職登用の数値目標を立てて、その達成に真剣に取り組んでいる企業が多いです。加えて、出産後に育児休業制度を活用して就業継続する女性が増えたことで、管理職候補者の層が厚くなっています。これは期待が持てることです。
 しかしながら、日本の管理的職業従事者に占める女性の割合は、欧米諸国ではおおむね30%以上、フランスでは40%を超えている中で韓国が15.7%と、日本の13.2%はOECDでは最低レベルです(※2)。上場企業の女性役員比率は、10年間で5.8倍に増えているものの9.1%に過ぎません(※3)。

(※1)厚生労働省「賃金構造基本統計調査」によると、1989年と2021年の管理職に占める女性の割合は、民間企業の係長相当職が4.6%から20.7%、民間企業の課長相当職が2.0%から12.4%へ増加している。
(※2)男女共同参画白書 令和4年版
(※3)「女性活躍・男女共同参画の現状と課題」令和5年内閣府男女共同参画局

山極清子 株式会社wiwiw会長

 この現状を打開する女性活躍推進には、8つの課題があります。影響力が最も大きい1つめは、組織・上司の問題です。男性中心で組織が成り立ち、社員は、同じサークルに所属する「運命共同体」の構成員のようです。管理職に占める女性比率の低さは、組織における権限とジェンダー意識を規定しており、女性管理職は30%以上に達しないと男性管理職群から“特別な存在”として扱われ、限定的で象徴的な役割しか与えられない。女性管理職数が限られている組織の多くで、男性管理職層の中に「女性は、仕事よりも、家事・育児などの家庭責任を優先する」といったアンコンシャス・バイアスが存在しています。このような管理職は、特に子育て女性のキャリア形成を支援するマネジメントスキルを欠いています。子育て女性の意向を聴かずに、仕事での中心的役割や責任を求めない補助的・定型的な業務をアサインし、会議や出張・研修から除外してしまう傾向が見受けられます。子育てへの配慮は、一見、理解ある管理職と見えますが、この過剰配慮が女性の成長機会を奪い、活躍を妨げているのです。
 2つ目の課題は長時間労働です。育児をともに担ってほしい30~40代の男性たちが最も多く長時間労働をしていて、有給休暇も取りにくい。長時間労働の夫を持つ女性ほど家事・育児を担わねばならず、女性の活躍が難しいのです。私自身がヒアリングした結果においても、ワンオペを担っている女性は、管理職に登用されると長時間労働も避けられないとの思いから管理職への昇格には消極的でした。
 3つ目の課題は、長年にわたって根付いた男性中心の組織・職場風土です。そこでは男性を優先する職場方針や、行動原理が根強いのです。大事な会議を定時外に開催したり、飲み会や会合などの男性固有のネットワークが存在しており、そんな中から企業の中長期計画等が策定されることもあります。
 4つ目は仕事と育児の両立です。企業に「男性は仕事」、「女性は家事・育児」という固定的性別役割分担意識が根強いことに加え、心理的安全性が確保されていないため、育児・家事参画を希望している男性たちは育児休業を取得しにくいのです。
 5つ目は家庭内のジェンダー不平等です。私が実施したヒアリング調査では、夫が妻のキャリア形成に無理解な事例が顕在化しています。具体的には「仕事を続けたいなら家のことをしっかりやって」「昇進の試験勉強に時間を使うなら、子どもの面倒をみて」等です。また、義親から、「ウチの息子に家事・育児をさせるなんて」、あるいは、実親からも「母親なのだから、家庭を第一に考えて」と、女性が仕事よりも家庭責任を果たすことを望んでいる家族内の声が多くありました。
 6つ目は柔軟な働き方が道半ばであることです。在宅勤務などコロナ禍で進んだ部分もありますが、ワークシェアリングや勤務間インターバルなどはこれからなのです。短時間勤務制度がありながら使っている男性はいないなど、制度があっても使えない問題があります。
 7つ目は社会、政治、法律、制度、教育です。男女がともにキャリアを形成しつつ、仕事と生活の両立を可能にする法制度や税制、社会保障制度など社会的取組みが脆弱だと言えます。
 とりわけ、女性活躍は政治上の課題でもあります。性別で力を入れるべき政策に違いがあるだけでなく、優先度も異なる。子育てや介護など生活現場に近い女性が国、地方問わず議会に隈なく進出して男女共同参画政策の立案・実施・検証に関わることは、女性活躍推進に欠かせないでしょう。
 また、保育と看護は女性、理系や医学は男性といった特定の職域に偏っている「水平的職務分離」や高等学校の校長や大学の学長は男性に対し、教頭や小学校長は女性とする「垂直的職務分離」も変わらず、進路や職業選択を性別のステレオタイプで決めつける教育には大きな変化がみられない。女性たち個々人の職業選択や役職への昇進・昇格を阻む要因の一つに教育のあり方があげられます。
 最後に、8つ目は、女性自身の問題。女性の当事者意識は、それぞれに持って生まれた特性による部分もありますが、与えられている仕事の相対的価値の低さ、やりがいの欠如など、これまで受けてきた教育と経験の違いや企業内外の慣習と社会の支配的な価値観の影響を受けたものが少なくないのです。東京都「女性活躍推進法への対応等 企業における男女雇用管理に関する調査」(令和4年3月)によると、「上司から管理職になることを薦められたら引き受けるか」という質問項目に対し、引き受けないという男性は1割なのに、女性は3割近くいます。その理由を聞くと、男女ともに自信がないという回答が一番多く、女性の場合は次に、仕事と家庭との両立が難しいから、が続きます。両立ができないから引き受けない、つまり夫が家事育児を担ってくれれば管理職を引き受けることができるのです。あとは女性たちには励みになるロールモデルがいないことが問題ですね。
 企業からは、「やることは全部やった、あとは女性自身の問題だけ。女性の意欲が低い」と言われることがあります。しかし、女性が管理職に手を挙げないのは固定的な性別役割分担意識や長時間労働、社会の価値観やそれを反映した社会制度など様々な要因があります。このことは、男性が制度はあってもなかなか育休を取得できない要因とも、ほとんど重なります。

— 企業風土を変える上で最も重要なことを教えてください。また、女性活躍推進について反対意見が出たときはどのように対応されていますか。

 2年前くらいから、女性活躍推進についての反対意見を聞かなくなりました。というのは、法律の施行やSDGsなどの外圧があったことに加え、日本の経済がここ30年伸びておらず停滞していること、少子高齢化への先行き不安があることなど、これらの課題を打開する道筋を模索しており、そのいずれにも女性活躍推進が関わっているからです。
 近年、女性活躍を加速させる動きがみられます。金融庁が、男女格差の解消を進め、人口が減少する中で女性の労働参画を促す目的で、企業に「女性管理職比率」、「男性の育児休業取得率」及び「男女間賃金格差」を公表している会社及びその連結子会社に対して、これらの指標を2023年度の有価証券報告書から義務付けると発表したことがあげられます。この線上に、東京証券取引所プライム市場の上場企業には、女性役員比率引き上げが検討されています。
 さらに、経済のグローバル化により競争が激化している中で、欧米のダイバーシティ・インクルージョンへの関心が高まっているだけでなく、欧米での事業展開の経験を持つ経営層が企業風土を変えて経営パフォーマンスを上げていることから、むしろ女性活躍推進の勢いが増しています。こうしたことが重なって、女性活躍の潮目が変わってきたといえます。
 企業風土を変えていくうえで肝心なことは、働き方改革とジェンダー平等を同時に推進することです。それぞれを単独で進めた企業では、ジェンダー平等だけを推進して女性の登用を進めた場合、多くある長時間労働が前提となっている職場では子育て中の女性の就業継続が難しく、出産・子育て時の離職が増えてしまいます。他方で、働き方改革などのワーク・ライフ・バランス施策のみを充実させたものの職場内のジェンダー不平等が残っている場合では、女性は仕事と育児の「両立」はできてもキャリア形成ができずに管理職登用を拒んでしまうなど、女性活躍が進みません。つまり、ジェンダー平等と働き方改革は同時並行で進めていく必要があります。
 女性活躍推進への反対意見が出たとき、企業にやる気を出してもらうために効果的な方法は、データを示すことです。今では、役員に女性がいる企業、女性活躍推進・ダイバーシティが進んでいる企業は、そうでない企業よりパフォーマンスが高いことが明らかになっています。これにかかわる内外のデータを示すことが力になります。
 また、企業はライバル会社を強く意識しています。企業の風土を変えるには、行政からの呼びかけも大事ですが、他の競合企業はこのように目標を掲げて取り組み、成果を上げていますよ、と伝えることが効果的です。

— NWECに期待することについて教えてください。

 ジェンダー平等を大きく掲げて、ジェンダー平等を推進する企業や自治体の背中を押すような機関として事業を進めていただきたい。それらの結果、ジェンダー・ギャップ指数も現在は116位と低い現状を変えていくよう、世界に視野を広げ、年々順位を引き上げ続け、いずれは先進国として10位以内には入れると期待しています。
 また、ジェンダー平等に向けて、企業と意識的に関係をつくって、伴走してほしいです。そのためには、資金も必要になるので、予算をしっかり獲得して、共にジェンダー平等を進めて参りましょう。

萩原なつ子と山極清子氏の写真

山極 清子(やまぎわ きよこ)

 資生堂長岡販売、Shiseido cosmetics America,Ltd(New York)を経て株式会社資生堂本社に異動。1995年21世紀職業財団へ出向し、両立支援部事業課課長に就任。これを転機に資生堂のダイバーシティの礎を築く初の女性人事課長に就任。経営改革室、CSR部次長、男女共同参画リーダーとして社員の意識・実態把握調査に始まる3期7年に及ぶ行動計画・ロードマップ作成。女性管理職育成・登用、事業所内保育施設「カンガルーム汐留」設置や男性の育児・家事参画はじめワーク・ライフ・バランス施策、働き方改革を推進。2010年wiwiw社長執行役員、代表取締役社長・会長を経て現職。現職に至るまで27年余り、一貫してダイバーシティ&インクルージョン、女性活躍推進、女性のキャリア、仕事と育児・介護との両立等、働き方改革に取り組んできている。
 現在、年間取引1,186社にわたる企業・自治体・団体とのネットワークを活かし、理論と実践を融合した企業にとって最も有効かつ競争力を高めるダイバーシティ経営の提案など、これらに基づくコンサルティングを実施。人的資本経営の下、研修講師に力を入れた活動を展開。2009~2014年立教大学大学院ビジネスデザイン研究科特任教授。2014~2020年昭和女子大学客員教授。2015年立教大学にて経営管理学博士号取得。JOTA認定アソシエイト講師(2021)。

<現職委員>
東京都人事委員会委員、長野県男女共同参画審議会委員、「みえの働き方改革推進企業」三重県知事表彰選考委員会委員など。

<歴任委員> 安倍総理主催「若者・女性活躍推進フォーラム」委員、経済産業省「企業活力とダイバーシティ推進に関する研究会」委員、厚生労働省労働政策審議会「職業安定分科会」専門委員、文部科学省独立行政法人評価委員会「国立女性教育会館部会」委員、文部科学省中央教育審議会生涯学習分科会「学習成果の評価の在り方に関する作業部会」専門委員、厚生労働省「女性の活躍推進協議会WG」委員、「神奈川県男女共同参画審議会」専門部会委員、日本経団連「企業における男女共同参画推進WG」委員など。