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コラム

「 女性の正社員化の今後 」川口大司(2016.12.15)

川口大司 東京大学大学院経済学研究科教授

 2000年代に入ってから30歳代、40歳代の女性の就業率は上昇を続けている。いまでは15-64歳女性の約65%が働くまでにいたっている。この意味では女性の労働市場における活躍場は広がっているといえるのだが、男女間の賃金格差はいまだに大きく、3割弱の賃金差がある。この大きな男女間賃金差の根本的な原因になっているのが、女性の多くが非正社員として働いていることである。非正社員の賃金は正社員よりも低いから、女性の正社員化が進まない限り、男女賃金格差の縮小は難しいであろう。
 目下の労働市場では人手不足が深刻化している。これは2008年の金融危機で労働市場が大いに冷え込んだ後の回復が長期にわたっていることの影響と、少子化が進み労働者数が減少しつつあることの影響が合わさった構造的な需要増だ。これまでは、今まで働いていなかった女性が働き始めることや高齢者の就業率上昇で対応してきたが、この人々も早晩払底するだろう。その後、非正社員の賃金は上昇し始めるだろうから、企業も非正社員に頼り続けるよりも、正社員化など待遇改善で人手を確保した方がいいということになろう。
 非正社員の正社員化が進む中で、育児などの制約のため、今の正社員に多い長時間労働は難しいという人も増えるだろうから、企業は準正社員、あるいは限定正社員という形で雇用を増やすことになろう。すでに飲食業や小売業といった人手不足が深刻な産業では、各企業が対応を始めている。現在の解雇法制、税制、社会保障制度などもろもろの制度は、このような限定正社員の増加を前提に設計されていないから、矛盾が徐々に出てくることになろう。準備体操を十分に始めておくべき時期である。

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