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コラム

「 男性の介護が仕事に及ぼす影響 」池田心豪(2017.4.15)

池田心豪 労働政策研究・研修機構主任研究員

労働政策研究・研修機構主任研究員 池田心豪氏の写真

昔も今も介護者の多くは女性であるが、近年は妻を介護する夫、父母を介護する息子といった男性の介護者も目立つようになっている。これと歩調を合わせるように、仕事と介護の両立に社会的関心が集まっている。安倍政権が「介護離職ゼロ」を成長戦略の一つにしていることは有名だが、企業もこの問題に関心を持ち始めている。
 現在介護離職者は年間約10万人いるとされているが、その1割~2割は男性である。介護に直面する可能性が高い中高年のベテラン社員や管理職の離職は、男女にかかわらず企業にとってダメージであるが、現状は男性の方が責任の重い仕事についている割合が高い。そのような事情がこの問題に対する企業の関心の背景にある。
 だが実は、主介護者に占める離職者の割合を男女で比較すると、男性の方が低い。主介護者が介護のために仕事を休む割合も男性は高くない。つまり、両立支援のキーワードである離職や休暇・休業といった観点からみる限り、男性は女性よりも仕事と介護を両立しているように見える。
 しかしながら、仕事を辞めず、また休まずに出勤していても、思うように働けてはいない、その意味で両立できているとはいえない問題が介護にはある。たとえば、認知症で昼夜逆転している家族の深夜介護をしている場合、仕事を休む必要はない。だが、そのような生活によって介護の疲労とストレスが溜まれば健康状態は悪くなる。それでもなお無理をして働き続けた結果として、事故や重大な過失を起こす危険性が高まる。その傾向は女性よりも男性の方が顕著である。
 要するに、男性は女性と仕事と介護の両立の図り方や両立困難の表れ方に違いがある。健康悪化による事故や過失のリスクという問題は、女性の離職を問題にしていた両立支援の議論にはなかった論点である。男女の共通点と相違点、その両方に目を向けることで見えてくる課題がある。

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