国際連携

国際協力機構との連携

実施報告

2019年度課題別研修「アセアン諸国における人身取引対策協力促進」

開催期間:2019年10月23日(水)~11月8日(金)


国立女性教育会館は、10月23日から11月8日まで国際協力機構(JICA)から委託を受けて「アセアン諸国における人身取引対策協力促進」を開催しました。今年はアセアン地域から、カンボジア、ラオス、ミャンマー、フィリピン、タイ、ベトナム、6か国12名の行政及び民間の人身取引対策に携わる担当者が参加しました。

セミナーでは特に防止や保護に向けた方策に焦点をあてて、日本や各国の取組から相互に学びあい、ネットワークを深めることを目的としています。主な柱は、第一、日本の人身取引対策行動計画を基盤とした官民の体制や取組を学ぶ、第2、カントリーレポートの発表を通じて互いに課題や相違点、好事例を共有、第3、アセアン地域における人身取引対策のネットワーク改善に向けた検討を深める、第4、各国の人身取引に対する施策を改善し、国内および地域間ネットワークを強化するためのアクションプランを作成することです。研修は、視察や講義、参加者同士の討議を交えてすすみ、最終日には、人身取引撲滅に向けた当事者の視点に立った被害者保護と、アセアン地域における協力関係の促進を図っていくためのアクションプランを各国の研修員が発表しました。

1.研修ハイライト

【日本政府の取組】

日本政府の人身取引対策については、内閣官房を訪問し、「人身取引対策行動計画2014」に基づいた取組み体制、関係機関の活動概要や人身取引事犯に関する統計の説明を受けました。人身取引被害者保護に関しては、基盤となる日本の女性保護の法的枠組みと体制、人身取引被害者支援施策について厚生労働省の担当官による講義が行われました。自治体レベルの女性保護事業について、東京都女性センターを訪問し、一時保護事業の概要や保護施設の見学、電話相談について学びました。

厚生労働省の取り組みについて講義

警察庁の担当官からは、人身取引事犯の取り締まり状況や関係機関との連携、匿名通報ダイヤルについて学ぶとともに、東京入国管理局を訪問し、入国審査や査証手続き、難民申請等について見学説明を受けました。

東京出入国在留管理局訪問

【埼玉県・NWECでの研修】

2週目の前半は、国立女性教育会館で行われました。男女共同参画を促進する会館事業の説明のほかに、専門職員がフェミニストカウンセリングと相談員研修について講義を行いました。各国が発表したカントリーレポートでは、人身取引対策省庁間会議メンバーに民間団体が正式メンバーに加わっている国があることや、人身取引事案に必ず捜査機関と保護に携わる職員がチームとして対応すること、代理母出産、臓器売買が大きな問題になっていることなど、各国の組織体制や課題の相違点、好事例など最新状況が共有されました。

国際移住機関(IOM)のケースワーカーからは、日本政府から委託を受けて実施されている人身取引被害者支援事業について説明があり、各国の取組み状況を比較するグループ討議も行われました。斎藤百合子教授の講義では、国毎にアクセス可能な避妊薬が異なるために、移住女性が直面している困難について学びました。

中澤理事の歓迎挨拶

グループワークと討議

【民間団体による移住女性や母子、子どもたちの支援】

埼玉県では、ふじみ野国際交流センター(FICEC)を訪問し、地域で生活する外国につながる大人や子どもたちに、ボランティアで取り組む女性達に話を伺いました。日本語学習支援や多言語による電話相談・生活相談など、多岐にわたる支援活動に取り組む

FICEC訪問

千葉県木更津市を訪問し、社会福祉法人一粒会の取組みについて伺いました。手づくりの昼食をいただき、敷地内の母子自立支援施設や児童養護施設を見学し、児童福祉制度や外国人母子が直面する課題について学びました。

一粒会訪問

母子自立支援施設の見学

外国人の人身取引およびDV被害者支援を行うウエラーワーリからは、途上国から来日する女性の割合が多い国の統計を見ながら、被害者には長期的な支援が必要であること、公的機関と民間の連携が大切であることを学びました。一般社団法人Colaboのスタディーツアーにも参加しました。繁華街の裏側にある少女たちを取り巻く現状を見学し、自治体との連携で行われているアウトリーチや居場所づくりの取組について説明を受けました。若年層の性的搾取やネットを通じた被害は各国が直面している課題ですが、特に若い女性の性の商品化が起きている現状について熱心な意見が交わされました。

【電話、労働、法律相談とアドボカシー活動】

各国では被害の事前防止や保護のための相談事業がさまざまな形で行われています。一般社団法人社会的包摂サポートセンターの見学では、全国に拠点を置き、相談者を社会資源にしっかりつなげていくよりそいホットラインの包括的な支援体制やLINEを使った若年向け相談事業について説明を受けました。

移住者と連帯する全国ネットワーク事務所も訪問し、人身取引被害当事者の経験をビデオで視聴し、外国人労働者が日本で直面する困難について話を聞きました。

人身取引被害者弁護団からは3名の弁護士に出席いただき、人身取引の事例に基づき被害者支援の課題に関して活発な質疑や意見が交わされました。

よりそいホットラインについての講義

移住連代表理事鳥井氏による講義

【JICAの取組みとアクションプランの発表】

最終週は、グループ討議も交えながら、研修を通じて得た知見をアクションプランに落とす作業が行われました。JICAジェンダー貧困削減室の専門家が、メコン地域を中心にJICAが行っている人身取引事業を説明すると、他国でも展開を希望する声があがりました。

最終日は、有識者を招いた「成果発表と意見交換会」がJICA東京で開催されました。日本での講義や見学、各国の取組事例についての話し合いから学んだことをいかして帰国後のアクションプランが発表されました。IOM所長、人身取引被害者弁護団、ACEF、研究者、NWECから有識者も出席し、緩やかなネットワークを継続しながら、アセアン地域での人身取引を根絶していくための話し合いが行われました。

成果発表会と意見交換会

修了式

研修を終えたASEANの人身取引対策に携わる担当官等からは、「担当者レベルのネットワークや情報共有ができた」、「今回の研修を契機に、参加者と協力して新しい調査プロジェクトを立ち上げる予定」、「日本で多くの民間団体が在住外国人や支援者に幅広い支援を行っていることを理解した」など、参加国間の話し合いや日本での講義や視察を通じてアセアン諸国の人身取引の取組について理解を深めたというフィードバックがありました。

最後に、本セミナーの実施にあたり講義や意見交換、見学受け入れで多大なるご協力をいただきました関係省庁(内閣府、外務省、法務省出入国在留管理庁、厚生労働省、警察庁)、都道府県(東京都、埼玉県)、大使館、国際機関、人身売買禁止ネットワーク、民間団体、有識者および支援活動に携わるネットワークの皆様に心よりお礼を申し上げます。

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