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実施報告

令和5年度課題別研修「アセアン諸国における人身取引対策協力促進」

開催期間:令和5年10月18日(水)~11月18日(土)


 国立女性教育会館は、令和5年10月18日(水)から11月18日(土)まで、国際協力機構(JICA)からの委託事業として課題別研修「アセアン諸国における人身取引対策協力促進」を開催しました。アセアン地域から、カンボジア王国、ラオス人民民主共和国、マレーシア、タイ王国、ベトナム社会主義共和国の5か国8名、政府省庁、警察、民間団体の人身取引対策担当者が参加しました。

令和5年度課題別研修「アセアン諸国における人身取引対策協力促進」実施要項

1.趣 旨
  国際協力機構(JICA)からの委託を受け、アセアン地域の人身取引対策に携わる関係者を対象とした
  3か年計画の研修を実施する(3か年計画の3年目)。
  国境を越えた広域的課題である人身取引問題のより良い解決に向けて、国を越えた関係者間の協力や
  情報共有の強化に資する研修を実施する。
  本研修の成果として、各国の取組強化に向けた成果報告書を作成する。

2.主  催    独立行政法人国際協力機構(JICA)

3.実施機関    独立行政法人国立女性教育会館(NWEC)

4.期  間     
  ZOOMライブセミナー
  10月18日(水)         インセプション・レポート発表
  来日研修
  11月 8日(水)         オリエンテーション
  11月 9日(木)~11月16日(木) 講義・視察・討議
  11月17日(金)         アクションプラン発表会・評価会

5.対  象    8名
  カンボジア、ラオス、マレーシア、タイ、ベトナムの人身取引対策の予防と保護の分野に携わっている
  者(中央・地方政府機関、市民組織団体等)。

6.研修項目
(1)各国政府の人身取引対策や人身取引の現状について理解する
(2)各国の市民組織団体による人身取引被害者支援策について理解する
(3)各国の人身取引被害・加害者訴追、被害者保護・帰還・社会復帰の一連のプロセス及び関係団体の
   役割並びに好事例について検討する
(4)国内及び国を超えたネットワークの強化に資する情報をまとめるアクションプランを作成する

7.使用言語    英語

8.日  程

令和5年度課題別研修「アセアン諸国における人身取引対策協力促進」スケジュール

 セミナーでは参加5か国及び日本の人身取引対策の特に予防や保護に向けた方策に焦点をあてて、官民の取組や事例について学び、意見交換を行いました。
 最初に、日本の人身取引対策行動計画を基盤とした官民の体制や取組について、講義や視察を通じて学びました。研修参加者は、各国それぞれの人身取引対策の取組に関するインセプションレポートを発表し、課題や相違点について意見交換を行い、好事例を共有しました。
 研修最終日のアクションプラン発表では、当事者の視点に立った人身取引撲滅と被害者保護について、参加者の職務で実行できる計画と具体的なスケジュールについて発表しました。
 研修を通じて、アセアン諸国における人身取引対策の協力関係促進を図っていくことが確認されました。

1.研修ハイライト

来日までのオンラインプログラム

 10月18日(水)に、Zoomを使用したオンライン・オリエンテーションを実施し、各国参加者が所属機関や自身の担当業務、本研修に期待することをまとめたインセプションレポートを発表しました。

来日後のプログラム

11月8日(水)~11月9日(木) 日本政府の人身取引に関わる取組

 プログラム・オリエンテーションの後、内閣官房、出入国在留管理庁、警察庁からの講義により、日本政府の人身取引に対する取組について理解を深めました。
 内閣官房の訪問では、日本における人身取引の基本的な情報と、政府の人身取引防止対策について学びました。

内閣官房で質問をする参加者 内閣官房で質問をする参加者 

NWECでの集合写真NWECでの集合写真

 出入国在留管理庁では最近の被害者支援の事例を含めた人身取引対策についてお話を伺うと共に、施設を見学しました。人身取引被害者であれば、不法就労の状態であったとしても、人身取引被害者としての帰国支援を受けられる点が自国の制度と違うため、自国でも参考にしたい、と驚いている参加者もいました。
 9日にはNWECへ移動し、理事長挨拶の後、警察庁より人身取引対策について講義を受けました。参加者からは、オンラインでの性犯罪や児童ポルノの取り締まり、ソーシャル・ネットワークのプラットフォーム運営企業による加害画像の削除や加害者のアカウント凍結といった連携の可能性についてなど、具体的な訴追の方法についての質問が出ました。

質問をする参加者 質問をする参加者

11月10日(金)~11月14日(火) 国際機関との連携及び民間の人身取引被害者支援の取組

 被害者中心アプローチの実践について、国際移住機関と市民団体の講師から事例を交えてお話を伺いました。意見交換では、人身取引対策に取り組む参加者と講師が自らの取組のきっかけや、仕事として続ける熱意について共有し、お互いの経験に共感しました。

講師との集合写真講師との集合写真

NWECのお茶室で日本文化体験NWECのお茶室で日本文化体験

講師との集合写真講師との集合写真

日本のオンライン性的搾取について真剣に話を聞く参加者日本のオンライン性的搾取について真剣に話を聞く参加者

 NWEC滞在中に各国からの参加者は、来日前に自国での人身取引対策の現状についてまとめたカントリーレポートを発表しました。参加者は熱心に自国の人身取引対策の現状について語り、意見交換をしました。
 特定非営利活動法人ぱっぷすからは、オンライン性的搾取の被害者支援のための取組を学びました。参加者は技術を活用した被害者支援についての知見を得るとともに、支援者のセルフ・ケアの大切さについても議論するなど、オンライン性的搾取の撲滅に向けたお互いの苦労と努力を共有しました。
 一般社団法人社会包摂サポートセンターへの訪問では、民間団体によるホットライン運営と伴走支援について、事例にも触れつつ取組についての講義をうけました。
 参加者からは、SNS相談窓口の設置、多言語での対応などの精力的な取組に関心が寄せられ、カウンセラー育成から職員のメンタルヘルスのケアに至るまで、多くの質問が出ました。

講師との集合写真講師との集合写真

参加者の集合写真参加者の集合写真

 人身取引被害者の支援に携わる弁護士の講師から、日本の人身取引をめぐる法律について、オンライン性的搾取の事例を含めてお話を伺い、法的枠組みと実際の人身取引事犯への適用について理解を深めました。東京都女性相談センターの見学では、公的な一時保護所の運営についての説明がありました。
 千葉県にある外国人支援、DV被害者女性や子供を支援する民間団体を訪ね、中・長期の滞在が可能なシェルターの見学を含め、被害者保護の取組についてお話を伺いました。参加者は法人の設立者が、アジアの子どもと日本の子どもを一緒に育てたいという思いから取組を始め、支援が拡がっていったというエピソードに感銘し、充実した施設、支援の手厚さに感心していました。

11月15日(水)~16日(木) 民間の移住外国人労働者支援の取組

 参加者によるファシリテーションで日本の人身取引被害者支援の取組を振り返り、各国の取組との比較をしました。研修で学んだことと、各参加者の自国での取組をつなげる有意義な時間でした。

振り返りをする参加者振り返りをする参加者

講師との集合写真講師との集合写真

 日本の外国人労働者、技能実習生をめぐる問題と取組について、特定非営利活動法人日越ともいき支援会の講師から講義をうけました。参加者からは、日本政府の対応、技能実習制度の監理体制や外国人技能実習機構(OTIT)の取組などについて質問があり、関心が高いことがうかがえました。

講師との集合写真講師との集合写真

講師との集合写真講師との集合写真

 特定非営利活動法人国際活動市民中心(CINGA)の講師からは、医者や弁護士などの専門家と支援が必要な外国人をつなぐ、中間支援の取組についてご説明いただきました。自国で被害者のためのシェルターやホットラインに取り組んでいる参加者からは、相談者への精神的支援の具体的な注意点、工夫する点などについて質問が出ました。
 また、JP-MIRAIの講師から、倫理的で責任ある外国人労働者の受け入れを実現するため、日本の企業・経済団体といった民間セクターと公的セクターが協力して取り組んでいる相談窓口の案内、外国人労働者受入れのための研修や勉強会の実施、情報提供やネットワーク構築支援等の機能をもつプラットフォームの運営についてお話いただきました。参加者からは、具体的な省庁との連携実績についてなど、参加者の職務に関連した質問がありました。

11月17日(金) アクションプラン発表と評価会

 有識者からの情報提供の後、参加者がアクションプランを発表しました。アクションプランでは、研修での学びと共に参加者の自国での課題を取り上げ、各々の職務に鑑みた具体的なプランと実施スケジュールを発表しました。出席した有識者とJICA職員と国際協力専門員からのコメントと応援メッセージを頂いた後、閉講式を行いました。
 閉講式では、参加者一人ひとりに修了証書が授与されました。

人身取引ストップ・ポーズで集合写真 人身取引ストップ・ポーズで集合写真

2. 参加者のコメント

・このプログラムはすばらしい学びの機会であり、日本のシステムに触れる良い経験でもありました。

・労働問題に関する同じようなプログラム(例えば日本とマレーシアの協力関係について)を提案したいと思います。なぜなら、マレーシアと日本は労働問題について似通った課題を抱えており、両国とも好事例が多くあるので、このようなプログラム(Knowledge Co-creation Program)から得るものがあるからです。

・すべてのプレゼンテーションに役立つ情報がありました。特によりそいホットラインでは法律上の問題やその他の暴力を経験した相談者をいかに支援してきたかが分かり、有意義でした。ぱっぷすがオンライン上の性的画像削除の取組に成功していることや、オンライン性的搾取から相談者の権利保護に真剣に取組んでいることは目を見張るような話でした。社会福祉協議会への訪問では、女性への支援を効果的に実践している様子を見ることができ、非常に参考になりました。

・すべての研修内容が役立つものであり、それぞれの講義とモデルから得るものがありました。



 本研修の実施にあたり講義や意見交換、訪問へのご対応で多大なるご協力をいただきました関係省庁(内閣官房、出入国在留管理庁、警察庁)、都道府県(東京都)、国際機関、民間支援団体、有識者および支援活動に携わるネットワークの皆様に心よりお礼を申し上げます。

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