国際連携

国際協力機構との連携

実施報告

令和6年度課題別研修「ジェンダーに基づく暴力の撤廃」

開催期間:令和6年9月3日(火)~令和6年10月12日(土)


 国立女性教育会館は、令和6年9月3日から10月12日まで、国際協力機構(JICA)からの委託事業として課題別研修「ジェンダーに基づく暴力(SGBV)の撤廃」を開催しました。
 参加者はバングラデシュ人民共和国、ボツワナ共和国、コンゴ民主共和国、エチオピア連邦民主共和国、ケニア共和国、モルディブ共和国、モンゴル国、ネパール、パキスタン・イスラム共和国、パプアニューギニア独立国、ソロモン諸島、南スーダン共和国、スリランカ民主社会主義共和国、東ティモール民主共和国の国や地方自治体の職員および市民社会組織においてSGBV対策に携わる職員の合計14名です。

令和6年度課題別研修「ジェンダーに基づく暴力の撤廃」実施要項

1.趣 旨
  国際協力機構(JICA)からの委託を受け、ジェンダーに基づく暴力(SGBV)対策に携わる関係者を対
  象とした研修をオンライン事前学習と来日プログラムで実施する(3年計画の3年目)。
  日本の行政や民間の取組の経験及び知見を踏まえつつ、SGBVの予防や被害者の保護、自立・社会復帰、
  加害者処罰に向けた取組のあり方について相互に学びあう。

2.主  催   独立行政法人国際協力機構(JICA)

3.実施機関   独立行政法人国立女性教育会館(NWEC)

4.期  間     
  オンデマンドプログラム
   9月 3日(火)~10月12日(土) 
  ZOOMライブセミナー
   9月 3日(火)、5日(木)  インセプション・レポート発表
  12月12日(木)         進捗報告会
  来日研修
   9月24日(火)来日後オリエンテーション
   9月27日(金)基調講演
   9月25日(水)~10月9日(水)講義、視察、グループ討議
  10月10日(木)~11日(金)アクションプラン報告、成果発表会と評価会

5.対  象   14名
バングラデシュ人民共和国、ボツワナ共和国、コンゴ民主共和国、エチオピア連邦民主共和国、ケニア共和国、モルディブ共和国、モンゴル国、ネパール、パキスタン・イスラム共和国、パプアニューギニア独立国、ソロモン諸島、南スーダン共和国、スリランカ民主社会主義共和国、東ティモール民主共和国のSGBV対策に携わる政府関係機関の管理職以上並びにSGBV対策に従事するNGO/NPO幹部。

6.研修項目
 (1)参加国及び日本におけるSGBV撤廃に向けた取組の経験や知見、教訓、課題を共有する
 (2)SGBVの撤廃に向けた取組における国際的なスタンダードである「被害者中心アプローチ」に基づく
    支援のあり方への理解を深めるとともに、実施強化を図る
 (3)参加国においてSGBVの撤廃に向けた取組を強化するためのアクションプランを作成する

7.使用言語   英語

8.日  程

令和6年度課題別研修「ジェンダーに基づく暴力の撤廃」日程表

 本研修は、来日前のオンライン・オリエンテーションと、約3週間の来日対面プログラムを組み合わせて開催されました。参加者は、SGBV対策に関する講義や関連施設の訪問により、国際的スタンダードである被害者中心アプローチに基づく支援のあり方や、日本を含む各国のSGBV対策の関連施策や行動計画、行政および民間の取組について相互理解を深めました。プログラム終盤では、参加者それぞれが自国における取組強化に向けたアクションプランを作成し、最終報告会で発表しました。

1. 来日までのオンラインプログラム

 9月3日、5日の2回に分けて、オンライン・オリエンテーションを実施し、所属機関の概要や各自の職務、SGBVに取り組む上での課題についてまとめたインセプションレポートを発表しました。
来日までのオンデマンド動画では、世界や日本におけるSGBVへの取組について学習しました(JICAやグローバル・ネットワーク・オブ・ウィメンズ・シェルターズ(GNWS)の取組、メディア協働組合アンフィルターによる高齢女性が直面している困難に対する取組、公益財団法人JOICFPがザンビア共和国で実施しているGBVプロジェクト、NPO法人BONDプロジェクトによる若年女性支援プロジェクト)。

2.来日後のプログラム

■9月24日(火)~30日(月)

 プログラム・オリエンテーション、有識者によるジェンダーに基づく暴力の国際潮流についての基調講演、内閣府、文部科学省、警察庁、並びに自治体の講師の方から、日本政府や地方自治体の取組についてご説明いただきました。加えて、NPOによるアウトリーチ活動についてのお話を伺い、様々な視点でSGBVについて考える機会がありました。
 
 基調講演には大谷美紀子弁護士を迎え、SGBV撤廃のための国際的な枠組みについて、女子差別撤廃条約や議定書に加えて、イスタンブール条約等の地域的な枠組みが、アジア地域にはいまだないことも説明されました。講義の中では、アフガニスタンにおける女子教育や女性の就労機会が著しく制限されている状況をはじめとして、紛争や災害によって顕在化するSGBVの問題に対して国際社会は何ができるのか?という問いかけに対して、既存の枠組みを活用して働きかけ続けることの重要性について話し合われました。

基調講演講師との集合写真 基調講演講師との集合写真

 日本政府の取組として、内閣府からは男女共同参画を促進するための施策について、警察庁からは、ストーカーやDV対策と被害者保護に関する警察の取組の紹介、文部科学省からは「生命(いのち)の安全教育」と「教育職員等による児童生徒性暴力等の防止等について」についての説明をうけました。ストーキングとDVが包括的に法制化されている国や、ストーキングについての対応がまだなされていない国など各国の実情が共有されました。教育現場やコミュニティーおける児童に対する性加害への対策は、参加国でも大きな問題であり、文部科学省や教育委員会の取組について活発な意見交換がなされました。

生命(いのち)の安全教育のスライドの抜粋生命(いのち)の安全教育のスライドの抜粋

 東京都では、女性相談支援センターの取組を紹介いただき、被害者中心アプローチに基づくDV被害者を含む困難を抱えた女性の一時保護と配偶暴力支援センターの役割についての理解を深めました。

 国際協力や援助の現場で実践されている「性的搾取・虐待およびハラスメントからの保護(PSEA)」について、工藤晴子神戸大学准教授を講師に招き、ワークショップも行いました。被害者中心アプローチに基づく組織運営と環境づくりを確認しました。

性的搾取・虐待およびハラスメントからの保護(PSEA)の講義を受ける参加者 性的搾取・虐待およびハラスメントからの保護(PSEA)の講義を受ける参加者

 若年女性の支援をしているNPO法人BONDプロジェクトからは橘代表とスタッフの方々から、公的機関の支援につながりにくい、生きづらさを抱える若年女性へのアウトリーチを中心とした活動についてお話を伺いました。当事者のエンパワーメントに向けて根気強く伴走支援をする取組にとても感銘を受けたという感想を口々に話していました。

■10月1日(火)~10月3日(木)

 今年度は、2泊3日の日程で兵庫県を訪問し、ジェンダー平等推進のための取組や被害者支援や啓発に取り組む民間団体の取組についてご説明いただきました。
 
 兵庫県立男女共同参画センター・イーブンの視察では、イーブン所長から男女共同参画推進のための研修や相談事業の取組についてご説明を受けました。施設見学では、ジェンダーや男女共同参画に関するあらゆる分野の書籍やDVD等が集まっている情報センターに対する興味関心は高く、参加者からは、「自国でも希望者が自分で学ぶことができる、こうした情報センターが必要だ」、「自国でもこのような施設をつくりたい」という意見が多く出ました。兵庫県立女性家庭センター所長には、一時保護や相談支援の取組についてご説明をいただき、参加者からは精神的な支援やカウンセリング、支援体制について等多くの質問がでました。
 
 NPO法人性暴力被害者支援センター・ひょうごと兵庫県立尼崎総合医療センターへの視察では、性暴力被害についての高い見識と経験を持つ医療関係者とNPO法人スタッフによるワンストップの相談および医療支援の提供が被害者の負担軽減や加害者処罰に重要な役割を果たしていることについて理解を深めました。病院の被害者支援に取り組む組織的な取組み体制についても感心の声があがりました。
 
 認定NPO法人 女性と子ども支援センター ウィメンズネット・こうべによるステップハウスや女性やシングルマザーと子供たちの居場所WACCAの見学では、女性が安心して暮らせる住居の提供を中心とした、中・長期的なフォローアップ支援や子育て中のシングルマザーなどに対する学習や居場所支援についての説明と意見交換が行われました。
 
 神戸視察は、大規模な震災から回復・復興をとげた市民、行政、女性団体等の力や取組から多くを学ぶ大変印象深いものになりました。

兵庫県立男女共同参画センター・イーブンの情報センター  兵庫県立男女共同参画センター・イーブンの情報センター  

性暴力被害者支援センター・ひょうご性暴力被害者支援センター・ひょうご

女性とシングルマザーと子供たちのため居場所WACCAの訪問女性とシングルマザーと子供たちのため居場所WACCAの訪問

■10月4日(金)、7日(月)~8日(火)

 ホットラインやSNS相談による伴走支援、SGBV対策関連法とデジタル性搾取の被害者支援に向けたアドボカシー活動、加害者更生の取組について学びました。
一般社団法人社会的包摂サポートセンター訪問では、相談者が自分で何とかできるという状況になるまで継続して支援する、ホットラインによる伴走支援についてお話を伺いました。特に、多言語での支援については、参加者の関心が高く、自国でも相談言語を増やしたいという声も聞かれました。
 
 国際人権NGOヒューマン・ライツ・ナウの伊藤和子弁護士からは、法律の観点からオンライン空間における暴力の現状と課題についてご説明いただき、NPO法人ぱっぷすからはデジタル性的搾取の被害者支援の取組についてお話を伺いました。グルーミングによる児童ポルノやデジタル搾取の問題など、参加国においても対策が必要となっている現状が共有されました。性的な画像や動画の削除についてデジタルプラットフォームを運営する企業による協力が重要であることから、未成年の性的画像の拡散を防ぐサイトや成人の被害を対象とした英国の団体の取組も紹介され、参加者から強い関心が寄せられました。

グループに分かれて参加各国や講義と訪問による学びについて共有する参加者グループに分かれて参加各国や講義と訪問による学びについて共有する参加者

グループ内での意見交換の内容を全体に発表グループ内での意見交換の内容を全体に発表

■10月9日(水)~11日(金)

 最後の3日間は、加害者プログラムについての講義のほか、参加者のアクションプラン発表が行われました。参加者はそれぞれ自国の課題に対して、自らの職務に鑑みたアクションと実施スケジュールを盛り込んだ計画を発表しました。
 
 加害者プログラムについての斉藤章佳西川口榎本クリニック副院長による講義では、加害者の社会的な孤立を防ぐための取組が犯罪の再発防止につながり、ひいては被害者をなくすことになるという考えが共有され、参加国でもこうした観点からの啓発・予防が重要という感想が出ました。

 最終日の閉講式では、修了証書が一人ひとりに授与されました。

修了証をもって集合写真 修了証をもって集合写真

3. 最後に

 研修の講義、視察等でご協力いただいた講師のみなさまにこの場をお借りして感謝申し上げます。

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