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国際協力機構との連携

実施報告

平成29年度 課題別研修「アセアン諸国における人身取引対策協力促進」

開催期間:平成29年10月19日(木)~11月2日(木)


国立女性教育会館は、平成29年10月19日から11月2日まで、国際協力機構(JICA)からの委託事業として課題別研修「アセアン諸国における人身取引対策協力促進」を開催しました。アセアン地域から、タイ、ミャンマー、ベトナム、ラオス、フィリピン、カンボジア、マレーシアの7か国13名の人身取引対策担当者が参加しました。この内、タイ、ミャンマー、ベトナムの3か国は、JICAが人身取引対策プロジェクトをこれまで実施しています。

平成29年度 課題別研修「アセアン諸国における人身取引対策協力促進」実施要項(案)

1.趣  旨
国際協力機構(JICA)がアセアン諸国において実施する、人身取引被害者保護・社会復帰・被害の予防の分野でのプロジェクトのカウンターパート及びアセアン地域の人身取引対策に携わる関係者を対象としたワークショップ型研修を実施する。3年計画の第3年次*。   
人身取引撲滅と被害者保護は一国のみで対応できる課題ではなく、国境を越えた広域的課題として対応するためにも、アジア地域におけるネットワーク形成が重要である。参加者が日本を含め、互いの国の人身取引対策に関する取り組みについて相互理解を深め、特に予防、被害者の保護と自立支援に携わる関係機関の役割や協力体制等について把握し、参加者間で人身取引対策に取り組む機関の機能強化や連携、国を越えたネットワークの強化に資する方策を検討することを目的として行われる。

2.主  催  
独立行政法人国際協力機構(JICA)

3.実施機関  
独立行政法人国立女性教育会館

4.協  力  
内閣官房、外務省、厚生労働省、警察庁、法務省、国際移住機関(IOM)、東京都、岐阜県、人身売買禁止ネットワーク(JNATIP)、一般社団法人社会包摂センター他

5.期  日  
平成29年10月19日(木)~11月2日(木)

6.対  象  
13名(男女)
カンボジア、タイ、マレーシア、ミャンマー、フィリピン、ベトナム、ラオスの人身取引対策の予防と保護の分野に携わっている者(中央・地方政府機関)。

7.研修項目
(1)日本政府の人身取引対策及び日本の人身取引被害者保護支援策について理解する。
(2)日本・参加国における人身取引予防・被害者保護・帰還・社会復帰の一連のプロセス及び関連機関の関係を把握し、グッドプラクティスを学び、課題について検討する。
(3)日本における在住外国人支援団体の取組について学ぶ。
(4)アジア地域における人身取引対策のネットワーク強化に向けて各国の状況やアプローチを理解し、改善策やネットワーク連携・強化に資する方策を検討し、成果発表を行う。

8.使用言語  英語

*平成27年度は、「アセアン諸国における人身取引対策協力促進セミナー」として実施。
**本研修の前身として、「人身取引に関する日タイ合同ワークショップ」(平成21~24年度)、「国別研修ミャンマー」(平成24~25年度)、「国別研修ベトナム」(平成24~25年度)、地域別研修「アジア諸国における人身取引対策協力促進セミナー」(平成23年~25年度)が、国立女性教育会館を実施機関として、日本(JICA東京)で開催されている。
なお、「国別研修タイ」は、平成25年度はJICA北九州で開催。タイの「メコン地域人身取引被害者支援能力向上プロジェクト」の関係者を対象にした国別研修が、平成27年度から別途、JICA関西で開催されている。

セミナーでは参加7カ国および日本の人身取引対策の特に防止や保護に向けた方策に焦点をあてて、官民の取組や事例について学び、意見交換を行います。まず、日本の人身取引対策行動計画を基盤とした体制、婦人保護制度と官民の役割、人身取引被害者や国内で暮らす外国人に対する支援の取組みについて省庁、団体、国際機関等の担当者による講義や視察・見学が行われました。参加者は、各国それぞれの状況を学びながら、課題や相違点について意見交換を行い、好事例を共有しました。セミナーを通して、当事者の視点に立った人身取引撲滅と被害者保護について、相互の理解を深め、アセアン地域における協力関係の促進を図りました。

1.研修ハイライト

前半 
研修2日目の午前中は、内閣官房で人身取引対策行動計画に基づいた、日本の人身取引対策の実施体制や年次報告書の作成、関係機関の取組みの概要や統計について話を聞き、意見交換が行われました。東京入国管理局では、保護または帰国支援の人身取引事案事例についての説明の後に、東京入国管理局の施設見学が行われ、査証申請の窓口や手続、収容施設の生活について説明を受け、多くの質問が出ました。

内閣官房での施策説明

東京入国管理局の説明

3日目、研修員は二手に分かれて、Aグループは、関東近県の民間シェルターを訪問し、施設見学と外国人被害者の支援について話を聞きました。Bグループは、インターネットを通じた若い女性のポルノ被害の現状と支援団体の取組みについて話を聞きました。各国のポルノグラフィーに関する法規制や子どもを取り巻くポルノの現状や課題について熱心な議論が行われました。

4日目の午前は、警察庁および厚生労働省の担当官から、各省庁の人身取引対策についての説明を受けました。午後は、東京都女性相談所で、自治体の女性相談所の役割について説明を受け、施設を見学しました。

警察庁の人身取引対策の説明

5日目は社会福祉法人一粒会を訪問し、母子自立支援施設の見学や外国人女性の保護や当事者の立場に寄り添った支援の取り組みについて学びました。

児童養護施設の施設見学

社会福祉法人一粒会で意見交換

6日目は、厚生労働省の担当官に11月から施行される技能実習制度について説明を受けました。午後は、移住労働者と連帯するネットワークで、外国人労働者の現状と課題や支援団体の取組みについて話を聞きました。

7日目と8日目は、国立女性教育会館の研修施設で、国立女性教育会館および日本の男女共同参画の現状についての講義が行われ、グローバルジェンダーギャップ指数が低い原因や職場における女性の活躍について活発な意見交換が行われました。茶室での日本文化体験も楽しみました。

内海理事長開会挨拶

各国の男女共同参画や女性活躍について意見交換

会館のお茶室で日本文化体験

二日間にわたって行われたグループワークでは、国際移住機関や県警の担当者、人身売買禁止ネットワークの吉田容子弁護士らを交えて、事例検討や「保護」や「防止」をテーマにグループディスカッションが行われました。

「保護」をテーマにグループ討議

9日目は、外国人が安心して暮らせる社会について考えるために、公益財団法人かながわ国際交流協会を訪問しました。外国につながる子どもや家族に対する講座や、出産前から学齢期以降も含めたライフコースに沿った相談や支援について説明を受け、多様な言語で作成されたリーフレットをいただきました。
午後は、在住外国人を対象にした介護者研修を実施している、公益社団法人横浜市福祉事業経営者会を訪問し、言葉や習慣、文化の壁に配慮して、外国人受講生の立場に寄り添いながら行われている研修・就労支援の活動の見学と説明を受けました。

在住外国人を対象にした介護者研修についての説明と意見交換

10日目は、成果発表会と意見交換会が開催されました。今年は、JICAの人身取引対策プロジェクトの説明、各国のカントリーレポート、研修で得られた成果の発表や意見交換が行われ、関係省庁、大使館、国際移住機関、人身売買禁止ネットワーク関係者、人身取引被害者弁護団、民間団体など、研修講師や視察先として関わっていただいた方々にご参加いただきました。

成果発表と意見交換会

JICA東京で成果発表と意見交換

11日目は、一般社団法人社会的包摂サポートセンターにおいて、24時間体制で電話相談を受けつける「よりそいホットライン」の説明を受けました。全国各所に拠点をおき、多くの団体と連携しながら、地域資源とつないで切れ目のない支援を行う取組について、各国の相談体制と比較しながら多くの質疑応答が交わされました。

よりそいホットラインの説明

午後は、JICA東京において、タイ・メコン地域人身取引被害者支援能力向上プロジェクトの専門家2名によるワークショップが行われました。人身取引被害者の公式認定の有無によって生じる影響について活発なグループ討議が進みました。

グループ討議

最終日の修了式では、一人ずつにコース修了書が手渡されました。

修了証書授与

最後は全員でASEANハンドシェイク!

修了式終了後

2. 参加者の感想(抜粋)

研修を通じて参加者は、日本および各国の人身取引対策について理解を深めました。

  • 日本では政府とNGOが緊密な協力関係にある。また、職員の能力向上、人材育成のノウハウが進んでいる。日本と諸外国の協力についても学んだ。  
  • 日本政府がNGOをきっちりと支援していること、NGOが人種、国、言語が異なっても外国人労働者に平等に支援を提供していることがわかった。
  • 討論が活発に行われたことはとても良かったと思う。研修員は正直に自国の実情を語ってくれ学びが多かった。被害者認知や支援提供のプロセスを学ぶ為に研修に参加し成果があった。
  • 今回は初めての外国の研修であった。アセアン諸国の参加者から多くの知識、経験を学んだ。帰国後組織で共有したい。私も日本の技術に驚かされた。
  • 外国での研修に参加するのは初めてであり、日本の政策や法律、NGO等について多く学んだ。グループホームについては職場で是非共有したい。相談事業もとても良いと思った。研修関係者にも感謝したい。
  • 全体的に見て、日本の制度は素晴らしいと感じた。NGOと政府が互いに支えあって協力して特に人身取引対策と被害者支援の分野で成果をあげている。被害者中心主義は素晴らしいと思った。帰国後被害者保護の業務で活用したい。
  • 一生に一度の素晴らしい経験であった。改善点としてはケーススタディーにもっと重点を置いて欲しかった。次回も是非参加したい。
  • 日本のNGOはプロフェッショナルで非常に力がある。政府から支援を受け社会をとても良く支えている。外国人労働者にもさまざまな支援を提供しており素晴らしい。自国政府にNGOへの支援を強化しお互いに支えあうよう提案したい。講師のプレゼンからも多くを学んだし、他の研修員と人身取引予防、被害者保護について、情報共有、討論ができさまざまな事を学べた点もとても良かった。研修員は皆積極的で質問を良くし、情報を多く共有することができた。
  • 法律・政策の制定にはガイドラインなどメカニズムの整備が必要であり、今回は特に被害者保護の為の政策やメカニズムが学べた。女性相談所、視察した全てのシェルターがとても良かった。このような政策や場所は自国には無い。視察した電話相談センターも為になった。帰国後は情報を共有し電話相談、電話センターをどうやって良くしていくかを上司に報告したい。
  • 日本には被害者保護・支援の良い政策があり、特にNGOが運営する母子のシェルターが興味深かった。自国には政府のシェルターが1つあるだけだ。得た知識を持ち帰り関係者、関連機関に伝え、プロセスやNGOの改善を図りたい。日本に来て自国と異なる面を多く見ることができ良かった。リフレッシャーコースに是非参加したい。
  • 日本の制度、NGO、政府、警察、シェルター、被害者対応などの政策と実際の運用が学べた。上司に報告し自国のやり方を改善したい。
  • 職務レベル、個人レベルの両面から多くを学んだ。各国の人身取引対策は5Pと4R、保護、救済、帰還、社会復帰に加え訴追など政策レベルでは類似点がある。送り出し、受け入れ国でもプロセスは似ている。
  • 人身取引については政府組織が民間と協力して対応している。帰国後は学んだことを同僚と共有したい。田舎のシェルターも清潔で生活水準がこれまで見た他のアジアの国に比べて高い水準だ。とても良い刺激的な経験であり多くを学んだ。得た知識を活用したい。

本セミナーの実施にあたり講義や意見交換、見学受け入れで多大なるご協力をいただきました関係省庁(内閣府、外務省、法務省、厚生労働省、警察庁)、都道府県(東京都、神奈川県、岐阜県警察)、大使館、国際機関、人身売買禁止ネットワーク、民間支援団体、有識者および支援活動に携わるネットワークの皆様に心よりお礼を申し上げます。

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