国際連携

NWECグローバルセミナー

実施報告

令和3年度 NWECグローバルセミナー  ジェンダーに基づく暴力との闘い ーコロナ危機からの”より良い復興”に向けて

開催期間:令和3年12月1日(水)~12月21日(火)


今年度のNWECグローバルセミナーは、基調講演・海外の取組紹介をオンデマンド配信、
パネルディスカッションをライブ配信にて開催します。

1.趣旨

 世界を席巻している新型コロナウイルス感染症は、あらゆる国や地域で特に脆弱な立場に置かれた人たちに対する暴力や困難という形で露になりました。国連はこれを「陰のパンデミック」であると警告し、コロナ収束後の新しい社会を形成する際に、ジェンダー視点を中心に据えた取組みが必要であることを強調しています。
 今年度は、ポストコロナに向けて、ジェンダーに基づく暴力をいかに無くし、新しい社会を形成していくかをテーマに取り上げ、海外の先進事例や経験を踏まえ、課題克服の方策や一人ひとりがどのように取り組んでいくことができるかを考えます。

2.主題

 ジェンダーに基づく暴力との闘い -コロナ危機からの“より良い復興”に向けて
 Combating Gender-Based Violence -”Building Back Better” from the Covid-19 Crisis -

3.主催

 独立行政法人 国立女性教育会館

4.協力

 独立行政法人 国際協力機構(JICA)
 特定非営利活動法人 全国女性シェルターネット

5.配信期間

 基調講演・海外の取組紹介:令和3年12月1日(水)9:00~ 21日(火)17:00                                
 パネルディスカッション:令和3年12月16日(木)14:00~16:00

6.申込方法

①基調講演・海外の取組紹介 (オンデマンド配信) 

 ・「男女共同参画推進フォーラム<特設サイト>」にアクセスし参加登録をしてください
 ・開催期間中は参加者の都合に合わせ、いつでも視聴することができます(ただし通信料は参加者の負担
  となります)

 
②パネルディスカッション (ライブ配信)

  男女共同参画推進フォーラム<特設サイト>内、NWECグローバルセミナーのページにて
 必ず参加申込をしてください(申込締切:12月13日(月) 23時59分)。
  登録いただいた方には、12月14日(火)にZoomウェビナーのURLをEメールにて送付
 いたします。

 
 
③セミナーの流れ

 

7.使用言語

 基調講演・海外の取組紹介:英語講演に日本語字幕付き動画を配信
 パネルディスカッション:日本語

8.募集人員

 テーマに関心のある方 100名程度

9.プログラム

◆基調講演 (オンデマンド配信)

 基調講演1 タイコミュニティ開発センターの取組 -米国における脆弱な人々への支援
       (1994年~2021年)                  (アメリカ)

   
  タイコミュニティ開発センターは、すべての人々には適切な生活水準と生活の質に対する基本的な権利
 があると いう考えのもと、LA暴動後、1994年に設立されました。これまで繊維工場や農業分野の人身取
 引被害者救済をはじめとして、低中所得層の移民コミュニティで住民のエンパワーメントと包括的コミュ
 ニティ開発に取り組んできました。
  特に女性や子どもに対する暴力の問題に対するThai CDCの活動、コロナで直面した危機、そこからどの
 ように再興を果たすのかについて講演いただきます。

  講 師:
   チャンシー・モートレル タイコミュニティ開発センター 創設者・代表
   パニダ・ゾンカ     タイコミュニティ開発センター 主任弁護士


 基調講演2 女性と少女に対する暴力にICTを活用した取組 (オーストラリア)

  女性のためのサービスネットワークは、オーストラリアのシェルターや家庭内暴力に対応する組織を
 統括する団体で、1992年に設立されました。
  近年はICT(情報通信技術)に特化した支援や暴力の被害にあった女性へのスマートフォンの提供、
 デジタルスキル向上にかかる支援、専門家向けICT研修や調査研究を行っています。
  コロナ禍の公衆衛生危機下で、ICTを利活用して女性と少女に対してどのように支援を継続・展開して
 いったのか講演いただきます。

  講 師:
   キャレン・ベントレー 女性のためのサービスネットワーク(WESNET)CEO /
              セーフティーネットオーストラリアプロジェクト 設立者
 

◆パネルディスカッション 女性と少女に対する暴力をなくすために
                              (ライブ配信)


  私たちが、あらゆる女性と少女に対する暴力をなくすために、グローバルコミュニティーの一員とし
 て、ポストコロナを見据えてどのように行動していくべきか話し合います。
  女性と少女に対する暴力をなくすためにさまざまな分野で取り組む各団体の方々を迎え、「基調講演」
 や「海外の取組紹介」に対するコメントを交えながらパネリストとともに考えます。
 
  パネリスト:北仲 千里 特定非営利活動法人全国女性シェルターネット 共同代表
         「ジェンダー暴力防止」重視は世界のトレンド
          —世界のシェルター運動に接して見えてきた、共通の思いや課題—

        久保田真紀子 独立行政法人国際協力機構 国際協力専門員(ジェンダーと開発)
         女性や少女に対する暴力をなくすために ~国際協力の挑戦と課題~
        山岸 素子 特定非営利活動法人移住者と連帯する全国ネットワーク 事務局長
         移民女性へのDVの現状と課題〜当事者のエンパワメントに向けて
        吉田 容子 弁護士、人身売買禁止ネットワーク 共同代表
         DV、性犯罪、人身取引などの被害者に対する法的支援—その課題と展望
  コーディネーター:斎藤 文栄 公益財団法人ジョイセフ アドボカシー・ディレクター
 

◆海外の取組紹介 (オンデマンド配信)

 ◇ラップ 「なぜかは彼にきいて(Ask him Why)」 (オランダ)
   第四回世界女性シェルター会議のために作られた女性サバイバーグループによるラップ。
   「被害者を責めるのはやめて、被害者のせいにするのはやめて、私たちの権利を守ろう」、という
  サバイバーのメッセージをラップで伝える動画を紹介します。


 ◇女性ドラムグループ 「インゴマ・ニシャ(New Drum/New Power)」(ルワンダ)
   ルワンダ初の女性ドラムグループ「インゴマ・ニシャ(新しいドラム、新しい力の意)」によるドラム
  演奏。
   創設者が、当事者や社会に起きた意識変革とルワンダに根深く残るジェンダーに基づく暴力について
  語る動画を紹介します。

10.参加費

 無料(通信料は参加者の負担となります)

11.その他

 ・参加決定後にキャンセルされる場合は、お手数ですが研究国際室までEメール(タイトル「グローバル
  セミナーキャンセル」)にてご連絡ください
 ・セミナー終了後、NWECフォーラム2021<特設サイト>内、NWECグローバルセミナーページのアン
  ケートフォームにてご回答ください

 
【問合せ先】
 国立女性教育会館 研究国際室
 グローバルセミナー担当
 TEL:0493-62-6437  Eメール:rese2@nwec.jp

 国立女性教育会館は、令和3年12月1日(水)から21日(火)に、「ジェンダーに基づく暴力との闘い—コロナ危機からの“より良い復興”に向けて」をテーマとして、令和3年度NWECグローバルセミナーを開催しました。
 今年度のセミナーは基調講演と海外の取組をオンデマンド動画で提供し、パネルディスカッションをライブ配信しました。

●基調講演

 基調講演では、米国ロサンゼルスを拠点に活動しているタイコミュニティ開発センター(Thai CDC)による、人身取引被害者や移民など、脆弱な立場におかれた人々のエンパワーメントに資する取組についての報告と、女性のためのサービスネットワーク(WESNET)による、女性に対する暴力サバイバーを対象とした ICT を活用した取組や、コロナ禍における支援活動に関するオーストラリアの取組が報告されました。

タイコミュニティ開発センター(Thai CDC)

 Thai CDC 創設者・代表 チャンシー・モートレル氏、同主任弁護士 パニダ・ゾンカ氏から、「タイコミュニティ開発センターの取組—米国における脆弱な人々への支援(1994年~2021年)」と題し講演いただきました。
 Thai CDCは90年代前半にロサンゼルスで発生した人種間対立による暴動や大地震を契機に立ち上げられました。講演では、Thai CDCが長らく取り組んできたタイ国籍の非正規滞在者を含むマイノリティ住民に対する人権擁護活動や性的搾取された人身取引被害者に対する法的支援活動事例、コミュニティの構成員の社会的・経済的エンパワーメントを促進するための活動が紹介されました。持続可能なコミュニティづくりを目指すThai CDCは、コロナ禍においては、ワクチン接種や一時金を給付したほか、ロックダウン措置で多くの女性が家庭内に閉じ込められ、暴力被害が見えにくくなっていることから、そうした女性達へ支援を届けていくための積極的なアウトリーチ活動も展開していったことも紹介されました。

女性のためのサービスネットワーク(WESNET)

 WESNET CEO キャレン・ベントレー氏から、「女性と少女に対する暴力にICTを活用した取組」と題して講演いただき、デジタル暴力の事例や、デジタル暴力が女性や少女に与える影響について報告がありました。
 WESNETは企業や自治体との連携も含めて、暴力を受けた女性に対してICTを活用した先進的な支援を行っており、女性がテクノロジーの安全な利用方法を身につけ、デジタル暴力の支配という悪循環を断ち切ることを可能にしてきました。女性に対する暴力防止に向けて、私たち一人ひとりに役割があり、暴力を受けた女性や少女への支援や暴力が悪化する前の早期介入や予防はもちろんのこと、ジェンダー平等を推進していくことが重要であると締めくくりました。

 

●海外の取組紹介

 海外の取組紹介では、ラップ「なぜかは彼にきいて」と女性ドラムグループ 「インゴマ・ニシャ(新しいドラム、新しい力の意)」を紹介しました。

ラップ「なぜかは彼にきいて」

 このラップは女性サバイバーグループによるもので、第四回世界女性シェルター会議のために作られました。特定非営利活動法人全国女性シェルターネット共同代表 北仲千里氏は、「歌詞の内容は世界中のDVや性暴力と闘った女性たちの言葉からインスパイアされたものであること、『なぜかは彼にきいて』は支援を得ること、くぐりぬけること、癒されること、回復すること、そしてエンパワーメントについての歌であること、『被害者を責めるのはやめて、被害者のせいにするのはやめて、私たちの権利を守ろう』というメッセージを広げることが重要であること」と解説し、第四回世界女性シェルター会議に女性サバイバーグループのメンバーが寄せたメッセージが紹介されました。

女性ドラムグループ 「インゴマ・ニシャ(新しいドラム、新しい力の意)」

 ルワンダ初の女性ドラムグループ「インゴマ・二シャ」創設者であるガチレ・カテセ氏が、ドラムグループ創設の背景とドラム演奏を通じた意識変革、ルワンダ社会に存在する性差別やジェンダー規範について紹介しました。ルワンダでは、1994年に起きた大虐殺で男性人口が減少し、女性が国の復興を担ってきましたが、芸術分野では女性が排除され続けていました。カテセ氏の呼びかけに、学校に行くことができなかった女性や夫を失った妻などが集まり、今では世界中でドラム演奏会を行うまでに成長し、女性たちが社会的・経済的に自立を果たしたことが紹介されました。ルワンダでは国を挙げてジェンダー平等が進められていますが、性差別やジェンダー規範は依然根深く存在しており、カテセ氏はルワンダの文化的景観が女性に配慮されたものになるよう活動を続けています。

  

●パネルディスカッション

 パネルディスカッションでは、「女性と少女に対する暴力をなくすために」と題して、女性と少女に対する暴力をなくすためにさまざまな分野で取り組む各団体の方々を迎え、「基調講演」や「海外の取組紹介」に対するコメントを交えながらパネリストとともに考えました。

 パネルディスカッションの冒頭で、コーディネータの公益財団法人ジョイセフ アドボカシー・ディレクター 斎藤文栄氏が、基調講演や海外の取組紹介を踏まえ、コロナ禍における陰のパンデミックとしてDVの相談件数が増加していること、また「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律(DV法)」が制定されて20年が経過し、当事者の声により変わったことや残る課題に触れ、いま女性に対する暴力について取り上げることの重要性を強調しました。
パネルディスカッションの前半では、各パネリストが取り組んでいる女性と少女に対する暴力をなくすための活動について紹介しました。
特定非営利活動法人全国女性シェルターネット共同代表 北仲千里氏は、「『ジェンダー暴力防止』重視は世界のトレンド—世界のシェルター運動に接して見えてきた、共通の思いや課題」として、世界のシェルター運動の紹介や支援にはコンセプトが必要であること、またコロナ禍におけるシェルター運営の新しい取組や課題、そしてデジタル性被害といった新たな暴力の形態に触れました。

 弁護士、人身売買禁止ネットワーク共同代表 吉田容子氏は、「被害者への法的支援—その課題と展望」として、性暴力や人身取引、配偶者等からの暴力に関する法律や現行法では加害者処罰や被害者保護が限定的であることについて紹介し、女性に対する暴力の背景には男女間の経済的な格差があることを念頭に、現在の法律を見直し、暴力の予防や支援に力を入れることが重要であると述べました。

 特定非営利活動法人移住者と連帯する全国ネットワーク事務局長 山岸素子氏は、「移住(外国人)女性のDVの現状と課題〜当事者のエンパワメントに向けて」として、外国人女性は言語や文化の壁、在留資格等の関係で、脆弱な立場に置かれやすく、DVに対する適切な対応を含めた支援につながりにくいことに触れ、当事者の絆を強めるコミュニティづくりや当事者が声をあげることを支えることが重要であると述べました。

 独立行政法人国際協力機構国際協力専門員(ジェンダーと開発) 久保田真紀子氏は、「女性や少女に対する暴力の撤廃~国際協力の挑戦と課題~」として、世界中で地域や社会によってさまざまな形態の暴力が発生しているが、いずれも被害を受けた女性達が沈黙を強いられ、加害者が処罰を免れている現状に触れ、サバイバー中心主義に基づいた支援実施体制の強化と地域社会の意識と行動変容の促進が重要であることについて述べました。

 パネルディスカッションの後半では、コーディネータの斎藤氏より「海外での取組を踏まえて、ジェンダーに基づく暴力にどのように取り組んでいくべきか」という問いが投げかけられました。北仲氏は、WESNETのデジタル暴力に対する先進的な取組について言及し、日本では民間シェルターと行政・企業との連携が浅いことや各都道府県に設置されている公的な配偶者暴力相談支援センター等が主体的に活動を展開できない制約があるという課題を共有しました。吉田氏はラップ「なぜかは彼にきいて」で暴力の被害にあった女性が声をあげたことをとりあげ、女性たちが経済力をつけて自尊心を持って発言していくことの大切さに触れました。山岸氏はThai CDCの取組に言及し、社会で脆弱な立場におかれた人々への法的・社会的支援(相談対応、ケースワーク、食糧・住居支援)、公正な法制度支援、公平で持続可能なコミュニティづくり、被害者へのエンパワーメントを包括的に行うことの重要性を指摘しました。久保田氏は女性ドラムグループ 「インゴマ・ニシャ」の取組に触れ、女性サバイバーが生きる力や自尊心を取り戻したことや、「インゴマ・ニシャ」が米国ブルーマーブル・アイスクリームの若手女性起業家の支援を受けて、ルワンダ初のアイスクリームショップ「Sweet Dreams(甘い夢)」を立ち上げたことを紹介し、支援システムの強化という観点から、地域の女性たちの声を丁寧に聴いて、女性たちが多様な関係者と繋がるようなネットワークづくりを支援することの重要性を強調しました。

 次に、斎藤氏からの「様々な立場から女性に対する暴力に取り組む中で、予防・啓発・保護・被害回復と自立支援の中で最優先に取組むべき課題は何か」という問いには、久保田氏は暴力の被害を受けたサバイバーが人生を取り戻していくという支援を草の根の活動から学んでいく必要性、山岸氏は一時保護後の中長期回復や自立支援、在留外国人へのきめ細かい支援の必要性を強調しました。また、吉田氏は支援者が力と支配の関係性や自分自身のジェンダー規範に気づくこと、そして女性が経済的に自立することで発信力を高められると述べました。北仲氏はあらゆる形態の暴力から女性を保護し、女性に対する暴力やDVを防止、訴追、撤廃すること等を目的としたイスタンブール条約に言及し、海外では加害者処罰や被害者中心の支援が進んでおり、日本は国際スタンダードから学び、施策につなげるべきだという提言を行いました。

 参加者からも多くの意見や質問が寄せられ、活発な議論が展開されました。

 最後にコロナ後の社会を見据えて、ジェンダーに基づく暴力をなくすためには、ジェンダーに基づく暴力の根底にある社会的不平等を変えていく取組、誰一人取り残さない支援、国内外を含む多様なアクターとの連携が必要であること再確認し、これからの日本に何が必要なのか、私たち一人ひとりが何をすべきなのか見えてきた、大変有意義なセミナーとなりました。

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