国際連携

国際協力機構との連携

実施報告

令和7年度課題別研修「人身取引対策グローバル協力促進」

開催期間:令和7年10月21日(火)~令和8年1月15日(木)


国立女性教育会館は、令和7年10月21日(火)から令和8年1月15日(木)まで、国際協力機構(JICA)からの委託事業として課題別研修「人身取引対策グローバル協力促進」を開催しました。アフリカ・欧州・アジアの地域から、カンボジア王国、マーシャル諸島共和国、タンザニア連合共和国、タイ王国、ウクライナの5か国6名、政府省庁、警察、検察、入国管理局から人身取引対策担当者が参加しました。

1.趣 旨
国際協力機構(JICA)からの委託を受け、人身取引対策や移住労働者の保護支援に携わる関係者を対象とした研修をオンライン及び来日プログラムにて実施する(3年計画の2年目)。
国境を越えた広域的課題である人身取引問題のより良い解決、及び移住労働者の保護支援に向けて、国を越えた関係者間の協力や情報共有の強化に資する研修を実施する。

2.主 催
 独立行政法人国際協力機構(JICA)

3.実施機関
 独立行政法人国立女性教育会館(NWEC)

4.場 所
 JICA 東京(東京・幡ヶ谷)ほか

5.期 間
(1)オンラインプログラム
令和7年10月21日(火):オリエンテーション
10月21日(火)~11月19日(水):オンデマンド学習
令和8年 1月15日(木):アクションプランの進捗報告会を実施
(2)来日プログラム
令和7年11月 3日(月・祝):来日
11月 4日(火):来日後オリエンテーション、講義
11月 5日(水)~18日(火):講義、視察、グループ討議
11月19日(水):アクションプラン発表と評価会
11月20日(木):離日

6.対 象 研修員 6名(5か国)
 カンボジア、マーシャル、タンザニア、タイ、ウクライナにおいて、人身取引対策の予防と保護の分野に携わっている者(中央・地方政府機関、団体等)

7.研修項目
(1)各国政府の人身取引の現状や人身取引対策、移住労働者の保護支援策について理解する
(2)各国の市民組織団体による人身取引被害者支援策、移住労働者の保護支援策について理解する
(3)各国の人身取引被害・加害者訴追、被害者保護・帰還・社会復帰の一連のプロセス及び関係団体の役割並びに好事例について検討する
(4)上記(1)~(3)を通して、国内及び国境を越えたネットワークの強化に資する情報をまとめる

8.使用言語
 日本語、英語(逐次通訳有)

9.来日時のスケジュール

研修では参加5か国および日本の人身取引対策の特に予防や保護に向けた方策に焦点をあてて、官民の取組や事例について学び、意見交換を行いました。
最初に、日本の人身取引対策行動計画を基盤とした官民の体制や取組について、講義や視察を通じて学びました。研修参加者は、各国それぞれの人身取引対策の取組に関するカントリーレポートを発表し、課題や相違点について意見交換を行い、好事例を共有しました。
研修終盤の「アクション・プラン発表会」では、当事者の視点に立った人身取引撲滅と被害者保護について、参加者の職務で実行できる計画と具体的なスケジュールについて発表し、最終日には、本研修の講師やJICA職員を参加者に迎えたオンラインで成果発表会を実施しました。
研修を通じて、人身取引対策のグローバルな協力関係促進を図っていくことの重要性が確認されました。

閉講式の集合写真 閉講式の集合写真

1.研修ハイライト

■来日までのオンラインプログラム

10月21日(火)に、ZOOMを使用したオンライン・オリエンテーションを実施し、各国参加者が所属機関や自身の担当業務、本研修に期待することをまとめたインセプションレポートを発表しました。
また、来日に先立って、内閣官房が取りまとめる日本の人身取引対策やJICA作成の人身取引対策への取組についてのオンデマンド動画を視聴しました。

■来日プログラム(11月4日(火)~11月19日(水))

プログラム・オリエンテーション後、各国の人身取引対策の状況や課題・好事例をまとめたカントリーレポートの発表があり、労働搾取や性的搾取に加えて、最近の傾向としてデジタル技術を悪用した人身取引(組織的な詐欺・不正行為を含む)は各国で共通する課題であること、オンライン求人広告に国境を越えて応募した労働者が移住先で当初予定の契約とは異なる労働(性的搾取も含む)に従事させられる人身取引被害のケースなども共有されました。警察、検察、入国管理局の参加者は、法執行に携わる視点から、人身取引と違法行為の線引きが難しいという点も共通の課題として挙げました。

カントリーレポートの発表カントリーレポートの発表

カントリーレポートの発表

一般財団法人アジア・太平洋人権情報センターの藤本伸樹主任研究員から日本における人身取引の歴史と変遷についての講義、及び国連高等人権弁務官事務所(OHCHR)のGenevieve Sauberli東南アジア地域事務所移住チーム長からの「人身取引課題への人権に基づくアプローチ」についての説明があり、人権とジェンダー視点に基づく支援の重要性について再確認しました。
その後、日本政府の人身取引に対する取組について、内閣官房、警察庁、東京出入国在留管理局、東京都女性相談支援センター、国際移住機関(IOM)による講義や見学がありました。
警察庁の生活安全局保安課人身取引対策係に加えて人身安全・少年課児童性被害対策・国際係からの児童の性的搾取の現状と対策についての講義では、SNSや生成AIを悪用した事犯や日本人による国外における児童ポルノの事例をもとに国際的な連携や捜査の重要性が提示されました。

内閣官房での質疑応答   内閣官房での質疑応答   

警察庁の取組についての講義警察庁の取組についての講義

IOMの講義では、参加者が人身取引被害者と被害の聞き取りをする警察の役を演じるロールプレイを行いました。参加者は警察や被害者の役割を演じながら、賠償金要求や報復を恐れて警察に協力できない被害者からの信頼を得られる警察の聞き取りの在り方について考えました。

IOMの講義におけるロールプレイ IOMの講義におけるロールプレイ

民間団体からも、特定非営利活動移住者と連帯する全国ネットワーク、多言語電話・SNS相談を全国規模で提供する一般社団法人社会的包摂サポートセンター、DVで避難する女性と子どもたちのための中長期のシェルターの運営などを行う社会福祉法人一粒会、人身取引被害者弁護団事務局長皆川涼子弁護士、デジタル性的搾取の被害者支援をする特定非営利活動法人ぱっぷすや若年女性へのアウトリーチ活動をする一般社団法人Colabo、齋藤百合子大東文化大学特任教授による講義や見学の機会を頂き、様々な機関・団体が連携して人身取引対策を進めていることに理解を深めました。
講義・訪問・討議を通じて、法律や体制の脆弱な部分をターゲットに人身取引の被害が発生していることが再確認され、多機関で連携してこれらの脆弱な部分をカバーすること、被害者の立場に立った支援の強化に加えて、人身取引を容認しない社会をつくるための啓発が重要であることが議論されました。

討議:講義や訪問からの学びを整理討議:講義や訪問からの学びを整理

討議:被害者認定プロセスについて意見交換討議:被害者認定プロセスについて意見交換

■アクション・プラン発表とオンライン報告会

参加者はアクション・プランを発表しました。アクション・プランでは、研修での学びと共に参加者の自国での課題を取り上げ、各々の職務に鑑みた具体的なプランと実施スケジュールを発表しました。
各国からの参加者は、今後6か月から1年をかけて、次のようなアクション・プランに取組みます。
カンボジア:障がい者やLGBTQ+の人身取引被害者のための適切な支援サービスの提供(Providing Appropriate Support Services for Victims of TIP for LGBTQ+ Group)。
マーシャル:人身取引対策・調整改善のための警察と関係機関の連携強化(Enhance collaboration between agency, including National Police, to improve coordination and response)。
タンザニア:海外で家事労働に従事するタンザニア人における労働搾取防止のための啓発(Laboure Exploitation among Tanzanian working as housemaids)。
タイ:JICA研修参加者による人身取引関連情報の共同オンライン監視(Joint Online Monitoring TIPS lead information local with Foreign JICA Partner)。
ウクライナ:犯罪者の処罰と被害者への補償を加速化するための欠席裁判導入に向けた法改正(Punishment for criminals and compensation for victims)。
捜査官を対象とする人身取引対策研修プログラムの策定(Organization of TIP Training Programs for Investigators)。

11月19日(水)の最終日には、オンライン成果発表会で、本研修からの学びと併せて、参加各国の人身取引の現状とアクション・プランについて報告しました。成果発表会には、研修で講師や訪問を引き受けて下さった方々、JICA職員、JICA長期研修員が参加しました。

閉講式では、参加者一人ひとりに修了証書が授与されました。

アクション・プランを発表する参加者アクション・プランを発表する参加者

閉講式で挨拶するNWEC理事閉講式で挨拶するNWEC理事

2.オンライン・フォローアップ・ミーティング

参加者は、令和8年1月15日にオンライン・フォローアップミーティングに参加し、来日研修の終盤で作成したアクション・プランの進捗を報告します。


本研修の実施にあたり講義や意見交換、訪問へのご対応で多大なるご協力をいただきました関係省庁(内閣官房、警察庁、東京出入国在留管理局)、都道府県(東京都)、国際機関、民間支援団体、有識者および支援活動に携わるネットワークの皆様に心よりお礼を申し上げます。

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