研修・イベント

研修

実施報告

令和2年度「大学等における男女共同参画推進セミナー」

開催期間:令和2年9月24日(木)~10月4日(日) / 定員:100名程度


事業内容

男女共同参画を組織の経営戦略と位置づけ、女性管理職の登用、研究者や職員等の働き方改革、学生に対する教育のあり方等の見直しが、教育力や研究力の向上に資することについて実践的に学ぶ研修を実施する。

1.趣旨

  男女共同参画を組織の経営戦略と位置づけ、女性管理職の登用、研究者や職員等の働き方改革、学生に対する教育のあり方等の見直しが、教育力や研究力の向上に資することについて実践的に学ぶ研修を実施します。
 平成30年11月に出された中央教育審議会の「2040年に向けた高等教育のグランドデザイン」(答申)によると、高等教育は「多様な価値観を持つ多様な人材が集まることにより新たな価値が創造される場」になることが必要であり、高等教育機関では、多様な学生、多様な教員による多様な教育研究の展開と多様性を受け止める柔軟なガバナンス等の在り方の検討が求められています。
 これまで日本の企業や大学等の組織において、人材の同質性は強みでした。しかし、コロナ禍を始め大きく変化する国際社会や自然環境への対応などSDGsの達成に向けて、イノベーション創出を目指した組織の柔軟な運営を行うためには、ダイバーシティの第一歩である女性活躍・男女共同参画の推進が不可欠です。

2.テーマ

「組織変革・イノベーション創出のためのダイバーシティ推進 -組織の同質性を考える-」

3.主催

独立行政法人国立女性教育会館
〒355-0292 埼玉県比企郡嵐山町菅谷728
TEL:0493-62-6724 Eメール:progdiv@nwec.jp

4. 後援

一般社団法人国立大学協会、一般社団法人公立大学協会、日本私立大学団体連合会、
全国公立短期大学協会、日本私立短期大学協会、独立行政法人国立高等専門学校機構、
全国ダイバーシティネットワーク

5.対象・定員

大学・短期大学・高等専門学校の役職員、男女共同参画に携わる教職員等
ライブ・録画配信参加者 100名程度(オンデマンド配信のみの視聴者に定員はありません)

6.実施方法・配信期間

(1)実施方法
参加者と公開期間を限定したZoom及びYouTube(NWEC Channel)によるオンライン配信。

(2)配信期間 令和2年9月24日(木) ~ 10月4日(日)
①9月24日(木):Zoomによるライブ配信
②9月25日(金):YouTubeによる録画配信
③9月26日(土)~10月4日(日):①②のプログラムのYouTubeによるオンデマンド配信(期間中、参加者の都合に合わせていつでも視聴できます。)
※①~③について、参加及び視聴を希望する場合は、事前の申込みが必要です。
ただし、①もしくは②に申し込んだ場合は、あわせてオンデマンド配信をご視聴いただけます。③への申込は不要です。
※視聴にはインターネットに接続できるパソコン環境(タブレット、モバイル端末も可)が必要です。①に参加する場合は、Zoomアプリをインストールする必要があります。Zoom及びYouTube視聴のために特別なアカウント登録などの必要はありません(通信料はご自身の負担となります)。

(3)研修の流れ   

7.内容

(1)基調講演「誰のためのダイバーシティなのか -大学における同質性を考え直す-」
 ライブ配信:9月24日(木)13:00~14:00(60分)
 オンデマンド配信:9月26日(土)~実施期間中

 学生・教職員等、大学の構成員の性別における大きな偏りはどのような課題を生むのか、また、その課題解決に向けた対応について考えます。
 講師:清水 晶子 東京大学大学院総合文化研究科教授


(2)事例報告
 ライブ配信:9月24日(木)14:30~16:00(90分)
 オンデマンド配信:9月26日(土)~実施期間中

 各高等教育機関の女性活躍・男女共同参画推進について、実際の取組事例の報告を聞き、課題解決に向けたヒントを得る機会とします。(各機関:報告・質疑応答30分)
     報告者:<九州大学>「ダイバーシティ・スーパーグローバル教員育成研修(SENTAN-Q)」
           玉田 薫 九州大学 副理事(男女共同参画推進担当)・先導物質化学研究所
                主幹教授
         <大阪府立大学>「大阪府立大学における女性研究者リーダー育成における取組
                  ~RESPECT(研究実践力強化支援プログラム)~」
           真嶋由貴恵 大阪府立大学学長補佐・女性研究者支援プログラムPO(プログラム・
                 オフィサー)・人間社会システム科学研究科/現代システム科学域教授
         <奈良工業高等専門学校>「奈良高専の新しい女性エンジニア養成教育プログラム
                      —しなやかエンジニア教育プログラム—について」
           藤田 直幸 奈良工業高等専門学校電気工学科教授
                 ・女性エンジニア養成推進センター長



(3)パネルディスカッション「変化を起こす組織を作る」
 録画配信:9月25日(金)13:30~15:00(90分)
 オンデマンド配信:9月26日(土)~実施期間中

 現在、高等教育機関が抱える課題を整理し、我が国において企業や地域との連携、SDGsの達成や国際貢献など様々な役割を求められている高等教育機関が、今後柔軟に変化していくための組織づくりについて女性活躍・男女共同参画の視点から検討します。
 パネリスト   :後藤 弘子 千葉大学大学院社会科学研究院教授
          入山 章栄 早稲田大学大学院経営管理研究科・早稲田大学ビジネススクール教授
 コーディネーター:安齋 徹  清泉女子大学文学部教授

8.申込方法・期限等

(1)申込方法
 専用申込フォームからお申込みください。

(2)申込期間
 令和2年8月18日(火)9:00~9月7日(月)17:00必着

(3)参加通知
 ライブ・録画配信の参加申し込みについては、先着順で受付けます。定員を超えて申し込みがあった場合は、オンデマンド配信による視聴となります。
 なお、参加通知は「参加申込書」記載の連絡先に、Eメールを送信します。
※9月9日(水)までに連絡がない場合は、お手数ですが事業課までお問い合わせください。
※参加決定後にキャンセルされる場合は、必ず事業課まで御連絡ください
※【事業課連絡先】Eメール:progdiv@nwec.jp  電話:0493-62-6724(平日9:00~17:00)

9.参加費

無料

10.その他

セミナー終了後、アンケートフォームをお送りしますので、回答をお願いします。

【参考】Web会議システムZoomの操作方法

参加方法手順
※アプリのダウンロードは事前にインストールすることをお勧めします。

※インターネットに接続できるパソコン環境(タブレット、モバイル端末も可)およびZoomアプリのインストールが必要です。また、通信料は御自身の負担となります。

令和2年度「大学等における男女共同参画推進セミナー」実施報告

 国立国立女性教育会館(NWEC)は、全国の国公私立の大学・短期大学や高等専門学校等の高等教育機関の役職員・教員を対象に、オンラインによる「大学等における男女共同参画推進セミナー」を令和2年9月24日(木)~10月4日(日)の11日間実施した。
全体のテーマは「組織変革・イノベーション創出のためのダイバーシティ推進 -組織の同質性を考える-」。
 1日目に基調講演・事例報告をライブ配信、2日目にパネルディスカッションを録画配信、3日目から9日間、参加者の都合のよい時間に視聴できるように3つのプログラムをオンデマンド配信とし、全国から229名が参加・視聴した。

9月24日(木) ライブ配信

1 基調講演「誰のためのダイバーシティなのか -大学における同質性を考え直す-」
  講師:清水 晶子 東京大学大学院総合文化研究科教授

 まず、大学におけるセクシュアル・ハラスメントと性暴力について、近年、特に2010年以降の世界的な動きや世界各国の大学の先進的取組を交え、お話いただいた。さらに、国内の大学で実際に起こった事件や学生の現状等を取り上げ、大学がもつ「ハラスメントの文化」や「レイプカルチャー」の存在とダイバーシティが果たす役割、大学におけるダイバーシティの追求の在り方等についてお話いただいた。講演の要旨は次のとおり。

 大学でダイバーシティが語られるとき、しばしばイノベーションやクリエイティブとつなげて語られることが多いが、それ自体は間違いとはいえない。戦略として打ち出すこともよいと思うが、同時に、きらきらしたところばかりに注目すると、これまで大学が抱えてきた大きな問題を見過ごしたり、今後の策を見誤る可能性がある。
 大学におけるセクシュアルハラスメントの告発というのは、学術研究、教育活動という場、それ自体に蔓延する男性主義への批判、告発に密接に繋がっている。アカデミアにおけるセクシズム(性差別)を問題にすることであり、個々人の良識や倫理に反しているという問題でもあるが、制度が誰のために、誰を念頭において作られているかという問題でもあった。
 ハラスメントとは、それ自身をハラスメントとして認識し、問題化させない、ハラスメントがハラスメントにならない状況を作り出すことが、ハラスメントを最も効果的に作用させる。疑問を持ったり、告発が起きにくい、それが当然である土壌を作っていくのが「ハラスメントの文化」である。また、性暴力の加害者やその背後にある偏見や性差別を、それ程たいしたことではないと見なすようなジェンダーを巡る一般的な社会の理解・文化に焦点をあてる概念である「レイプカルチャー」を見ていく必要がある。
 性暴力やハラスメント、レイプカルチャーは、本来、許容されるべきではない暴力である。組織や社会の中で、既に弱い立場にある人々にさらに圧力をかけ、生き延びたり、力を発揮したりすることを困難にしている文化を変えなければいけない。その時に必要なのは、ハラスメントの文化に合わせない人達の存在である。特定の社会や組織に属している多数派が見過ごしたり、受け入れたりしている前提を必ずしも共有せず、それに馴染むことのできない人々の存在が絶対的に重要になってくる。ここにこそ大学でダイバーシティを推進する意義がある。つまり、大多数の文化を温存しておいてフレーバー的にふりかけられるものではなく、多数派の文化それ自体を問い直し、変革を迫るのがダイバーシティである。
 文化自体を問い直す作業は、非常に意識的な努力が必要である。均質的な文化は、学ぶ、議論する、ネットワークをつくるなどの大学の研究活動の重要な側面に対して、特定の構成員はアクセスし易く、ある人はアクセスが非常に困難になる。これが文化であり、恩恵を受ける側にとっては、ずっとそうしてきたことであり、恩恵を被らない側にとっては、はっきりとした障壁として見えている。ダイバーシティが性差別と切り離されて、もっとクリエイティブでイノベイティブであるきらきらとしたものにとらえられている理由としては、ダイバーシティを文化の批判ととらえると反感を引き起こしてしまうからであり、無害な多数派に都合のいいことだからである。
 本来、ダイバーシティはある集団、ある社会を占める構成員が当然と思ってきた様態を、当然ではないもの、批判されうるものとして相対化していくことと不可分である。消化可能ではないもの、ワクワクする幸福な彩りにはなり得ない違いが、ダイバーシティの重要な要素になりうる。それこそが、構成員の多様性を保障するダイバーシティになりうると思う。既存の制度がはらむ差別や不均等の持続を脅かす、ある種必要なコンフリクト(衝突や対立)に満ちた差違の共存としてダイバーシティを考える。従来の不公平性を是正してその可能性を秘めたようなダイバーシティをどのような形で実現していくのか。
 現在、各国の大学が真剣に取り組み始めている。#MeTooのような第4派フェミニズム、BLMといった反人種差別、反植民地主義、環境的な正義を求める運動が国境を越えて、若い人の支持を集めているのが今の時代であり、各国の大学はそこへ連携しようとしている。日本の大学においても、きらきらした見栄えの良さや、近視眼的成果の追求に終わらないような大学の存在意義と長期的な歴史的意義を念頭におきつつ、同時に大学にある一種の均質性とそれを支えてきた文化を根本的に問い直す作業が求められているのではないか。

2 事例報告
 続く事例報告では、3つの女性活躍・男女共同参画推進における実際の取組事例として、九州大学の「ダイバーシティ・スーパーグローバル教員育成研修(SENTAN-Q)」、大阪府立大学の「大阪府立大学における女性研究者リーダー育成における取組 ~RESPECT(研究実践力強化支援プログラム)~」、奈良工業高等専門学校の「奈良高専の新しい女性エンジニア養成教育プログラム —しなやかエンジニア教育プログラム—」について報告を行い、課題解決に向けたヒントを得る機会とした。

(1)<九州大学>「ダイバーシティ・スーパーグローバル教員育成研修(SENTAN-Q)」
報告者:玉田 薫 九州大学 副理事(男女共同参画推進担当)・先導物質化学研究所 主幹教授
 九州大学の女性の活躍促進において、強みは「女性研究者の卓越した研究力」「充実した両立支援制度」「女性枠、配偶者帯同雇用制度に代表される大胆で挑戦的な施策」があり、特に女性枠の若手教員の活躍が目覚しい。弱みとしては、「女性研究者の絶対数の不足」、「上位職登用数、管理職数の不足」が挙げられる。長所を伸ばし弱点を克服するために、優秀な女性研究者の内部昇格制度として「ダイバーシティ・スーパーグローバル教員育成研修制度(SENTAN—Q)」を2020年から6年間実施。国内大学間での奪い合いではなく国際公募により公募・採用し、分離融合・学際研究の拡充として新たな分野で新たな人材を発掘することで、よい循環になるのではないかと考えている。

 SENTAN-Qは、世界と戦える実力を身につけることで女性の若手教員の輩出を目指す。研修の中身としては、STEP1~STEP6までの6段階で、STEP5までは国内、最後の6段階目は海外でクリアする。これを2年間実施し、その後上位職へ登用。男性女性ならびに文系理系教員の垣根を超えた学内ネットワークの形成、認定書付与による無意識のバイアスの排除を目的とする。
 STEP1は、研修生の選出。透明性の高い審査により女性及び若手教員(男性の場合37歳以下)を毎年10名程採用する。男女比は1対1、文理融合のクラス編成とし、実質的昇任審査を行っている。多様な人材を審査するため、審査員の多様性を確保し、チェックシートを配付して「無意識のバイアス」に留意した審査を行う。STEP2では、大学ガバナンス、ダイバーシティ・インクルーシブ教育(必修科目)。世界トップレベル大学の講師から大学の在り方、社会における多様性・包摂性の重要性を学ぶ。STEP3では同じく世界トップレベル大学の講師から英語によるアクティブラーニング方教授法教育を学ぶ。STEP4は、留学生への実践的研究指導(国内)。独立PIとして2名までの留学生に対し研究テーマ設定から、研究指導、論文執筆を1年間実施。世界トップレベルの研究指導法を学ぶことが目的であり、世界トップレベル研究者をメンターとして配置している。STEP5は、最新学問分野等のリカレント教育。AIやIoTなど最新データサイエンス、SDGs関連科目等の中から自分の専門外の分野を選択し、リカレント教育を受けることで周辺分野の視野を広げ、学際分野摂理や拠点形成、予算要求、上位職登用後の活躍の可能性を広げる。原則、学内で実施(選択必修)し、理系教員は文系も受講する。STEP6は、最終試験として海外(海外協定校等)での実践的教育・研修指導(原則8週間以上)。国内研修を修了したものだけが参加可能であり、英語により授業と学生への研究指導を行う。研修期間に出産、育児・介護のライフイベントがある場合、3年まで延長可。
 波及効果は、採用、育成、活躍、昇格のエコシステムの構築による教員の「質」の保証と「数」の増加の両立のモデル事業としての役割を果たす。共著論文執筆や国際的コンタクトが増え、国際レピュテーションの向上や男女混合、文理融合の研修と「認定書授与」により多様性を受け入れる組織、上位職登用後に女性・若手が活躍し易い環境の構築がある。九大の理念として、学生とともに教員も学び、教員が見本を見せる。部局をまたいで学生と同期、先輩後輩となる効果が今後どうなるのか楽しみである。さらに、AI,IoT、SDGsとの学祭研究の活性化によるアイデア投資価値の向上や研修効果の数値化(モデル事業)により女性・若手の活躍可視化による研究者を目指す学生の増加が期待できる。

(2)<大阪府立大学>「大阪府立大学における女性研究者リーダー育成における取組 
~RESPECT(研究実践力強化支援プログラム)~」
 報告者:真嶋由貴恵 大阪府立大学学長補佐・女性研究者支援プログラムPO(プログラム・オフィサー)・人間社会システム科学研究科/現代システム科学域教授

 大阪府立大学は、4つの学域と7つの大学院研究科、2つの機構をもつ中規模総合大学。高度研究型大学として、世界に羽ばたく地域の信頼拠点を以前から掲げてきた。「多様」「融合」「国際」の3つの視点を大切にしており、「多様」の一つに、多様な人材の育成と活用として外国人教員、SDGsなどもあるが、一番人口の多い女性研究者支援から始めている。

 2010年~2012年間、文部科学省科学技術進行調整費「女性研究者支援モデル育成」を採択。
2013年~2014年、自主経費で継続した。2015年~2020年、科学技術人材育成補助事業「ダイバーシティ研究環境実現イニシアティブ(特色型)」が採択された。補助金は2017年までで、以降は自主経費で実施。取組の内容は、異分野融合・共同研究の女性研究リーダーへの支援、女性上位職の両立支援など、産官学連携に強みをもつ本学の女性研究リーダー育成のためであり、第一がワーク・ライフ・バランスの基盤整備、第二がいかに研究力を発揮してもらうかという視点からの女性研究者支援であった。
第3期中期目標と中期計画(2017年~2022年度)に、新規採用における女性教員比率を30%、2020年度に女性教員比率を21%、女性教授ゼロの部局をゼロに、上位職(教授・准教授・講師)における女性比率を23%、上位職(副学長・理事・学長補佐)における女性比率25%という目標と計画を位置づけた。事業推進における信念として、外から「大学の支援事業(トップダウン)」と中から「女性研究者自身(ボトムアップ)」攻めていくこととした。
 実施体制は、大学の中に位置づけて実施。女性研究者育成は人材育成の柱と位置付けて、「科学技術人材育成ステアリング委員会」を設け、学長を委員長、委員を副学長・全部局長として「女性研究者支援プログラム運営委員会」「若手研究者育成事業」に取り組んでいる。
女性研究者支援は、教職協働の組織として女性研究者支援室をつくり、その中に女性研究者支援センターを作って、女性研究リーダー育成、ワーク・ライフ・バランス支援、研究者育成、裾野拡大事業を実施。また、「研究者支援のための研究所」をつくり、どのようにしたら研究者支援がうまくいくかということを研究の側面から見て、研究所を稼働させている。
 本学の女性比率は、2020年5月で徐々に上がってきていて、学域(現代システム科学域、工学域、生命環境学域、地域保健学域)で4割、研究科(工学、生命環境科学、理学系、経済学、人間社会システム科学、看護学、総合リハビリテーション学)で3割である。教員の女性比率の目標は21%だが、19.9%まで達成しており、比率は年々上がってきている。女性教授職は、この10年間で年々上昇しており、現在14.8%。新規採用は目標を達成しているが、上位職における女性教員比率の達成が難しい。再来年には、大阪市立大学と統合するので、それまでには達成できる見込み。
 ワークライフバランス支援と研究支援は、2010年からまずワークライフバランス支援を行い、次に環境整備として「Ⅰ ダイバーシティ研究環境基盤整備」、セミナーとして「Ⅱ スキルアップ支援プログラム」、Ⅱを受けた人は、Ⅲに申請ができて研究費をもらえる「Ⅲ RESPECT(女性研究者研究実践力強化プログラム」を実施した。
ワークライフバランス支援としては、研究支援員の配置やベビーシッター割引券発行を男女の常勤教員に対し実施している。この研究支援員の配置については、出産・育児・介護が年々増えている。スキルアップ支援プログラムは、外部資金獲得セミナー、英語論文作成セミナー、プレゼンテーション力向上セミナー、マネジメントセミナーの4つがあり、この4つのうち2つを受けると研究実践力強化プログラムに応募できる。連続性のある研究力アップ支援として、スキルアップセミナーを2回以上受講後、公開審査会(プレゼンテーション審査)を経て、RESPECTに採択されるもので、セミナーは好評。
 その他、パーソナルポートフォリオが研究力向上に役に立つことから、自分の将来をどう見通すかということで、パーソナルにポートフォリオを作成している。また、本学では、理系女子大学院生チームIRIS(アイリス)の活動も有名であり、本間泰子教授が男女共同参画社会づくり功労者内閣総理大臣賞を受賞するなど学生や教員が力を発揮して、地道に活動を積み重ねているところである。

(3)<奈良工業高等専門学校>「奈良高専の新しい女性エンジニア養成教育プログラム—しなやかエンジニア教育プログラムについて」
 報告者:藤田 直幸 奈良工業高等専門学校電気工学科教授・女性エンジニア養成推進センター長

中学から国立高等専門学校(以下、高専)へ入学する生徒は1%程度だが、技術者に占める高専卒の割合は10%程度。奈良高専は、独立行政法人国立高等専門学校機構51高専の1つである。高専機構としてはこれまでダイバーシティ研究環境実現イニシアティブ女性研究者研究活動支援事業を2回(2012年~2014年、15年~2020年)、奈良高専は奈良女子大学と2019年から行っている。
高専は、中学卒業後、5年間教育を受ける高等教育機関であり、学習指導要領には縛られない。教員は、大学と同じく教授、准教授職となっている。学生は、卒業後に就職したり、編入学で大学の3年あるいは専攻科へ2年間行くこともある。その後、就職したり、大学院へ進学する学生がいる。

<なぜ、今、高専で女性エンジニア養成なのか>
 10年前、「リケジョ」という言葉が出始めた頃、企業も女子の採用に積極的でなく、女子学生が増えても就職で困る状況であり、工学系に「なぜ、女子を増やすのか」という声があった。奈良高専は、2009年から「JST女子中高生理系進路選択支援事業」をスタートした。いつか女性の時代が来るだろうと思っていたが、あっという間に女性活躍推進の時代になり、今は、企業も女子学生を積極的に採用している。しかし、女子学生育成に注力することへの疑問の声が聞かれるようになった。
 女性活躍推進が叫ばれる時代が来たが、まだジェンダー平等は達成されていない。女性エンジニアの割合は約11%、特に指導的な地位にある女性の割合は8.3%と低く、高専に入学する女子学生数も2400人程度であり、高専女子は中学生の0.2%にしか存在しないマイナーな存在である。社会に出てもロールモデルがいない状況の中、追い風の今こそ力を注ぐべきと考える。

<何をすれば高専で女性エンジニア養成なのか>
 奈良高専は2009年からこれまで、学外からの支援経費を合わせて7300万円の予算で取り組んできた。
「立ち上げ期(2009年~2012年)」は、JST女子中高生理系進路選択支援事業により、「理系ゴコロのススメ:私ってもしかして理系?!」をポスター、リーフレットを女子中学生に48万枚大量配布したり、Webサイトを作った。また、夏休み自由研究のお助け教室や全国の高専を繋いだネット配信の講演会「女性研究者・エンジニアの素敵な生き方」を実施した。
 JST事業から見えてきた課題として、入試PRだけでなく、キャリア教育により学生を育てて進路を確保していく、入口(中学生)から出口(就職先)までトータルな女性エンジニア養成が必要。高専を卒業した女性がハッピーな人生を送り続けることができてはじめて、女子中学生や保護者に対し自信をもって入学してくださいと言える教育機関になるのではないか。
 課題を踏まえて、全国高専女子学生の連携による高専女子ブランド発信事業を実施した。それまでは、女子学生を使って広報活動を行う視点だったが、プロジェクトの中で女子学生自身が成長する活動が重要と考え、女子学生の活動にフォーカスする活動に変化した。女子学生自身が高専女子という自分のアイデンティティを見つけ、中学生、保護者、企業へPRしていこうというイベントや女子学生だけを集めた全国高専女子フォーラムなどを実施した。
 「水辺展開・継続期(2013年~2017年)」では、全国8地区の高専女子フォーラム開催に対する支援を行い、合計19回継続して各地で実施し。50社を超える企業が女性活躍促進についての発表に参加。
 「新展開期(2018年~)」は、女子学生プロジェクトグループが継続して活動しているが、参加人数は限定的であり、活動がマンネリ化して、全校的な活動になっていない状況であった。そのような中で、育成する女子学生象の具体化、全校的な教育プログラムとして位置付け、質とともに量(女子学生比率30%の目標)を追い求めることとした。
 また、本校の特色を何にするかについて将来計画委員会で検討し、女性エンジニアを養成する「しなやかエンジニア教育プログラム」を構築することになった。養成する技術者象は、「強さ」と「柔軟性」を備えたエンジニアであり、確かな工学の知識・技術、加えて社会・生活と技術をつなぎ、新たな価値を創造するための感性とそれを形にする表現力である。専攻科では、ダイバーシティーな環境におけるリーダーシップを備えたエンジニアを養成。本プログラムでは、豊かな感性・表現力とリーダーシップを備えたエンジニアを育てることを目的とした。異分野の授業を用意し、感性や表現力を磨く、いろいろな視点で物事を考える“しなやかな発想力”を身につけ、新たな価値を生み出すことができるエンジニア、モノづくりだけでなく、コトづくりができるエンジニアを育てること最終目的としている。本科のカリキュラム構成は、①「感性」を養う、②多視点をつなぐ力を養う、③「表現力」を養うという、3つの柱がある。感性・表現力を発揮するイノベーティブワークショップも夏休みに実施している。
 その他、女性エンジニアリーダー養成枠入試も実施している。

<何をすれば、高専で女性エンジニア養成なのか?>
 男子学生とは違うキャリア形成支援が必要と考え、女子学生の成長を願って育成を行っており、成長している女子学生の姿を女子中学生や企業に発信する。さらに、リーダーとなれる女子学生の育成に踏み出すチャンスとして、奈良高専は「しなやかエンジニア教育プログラム」により対応した。
 少子化による人口減少により、エンジニア養成を男子に依存していると質の低下を招く。女子学生の割合を増やすことで優秀な技術者を養成できる。エンジニアとして手塩にかけて育てた女子学生には、生涯にわたってエンジニアとして働き続けて欲しい。女性の就業継続についての調査において、キャリア講演を受講後、高専の女子学生の意識が「結婚・出産後も働き続ける」という割合が増加している。在学時代に女子に、そして男子にも適切なキャリア教育を実施する必要がある。
 女性エンジニアが増えると経済が活性化する。消費の多くは女性がコントロールしており、技術開発分野への女性の進出が重要。また、特許は、発明者が男性のみより、男女が関わっている方が価値が高いといわれている。女子学生が生涯にわたってハッピーな人生が送れるように、女性エンジニア養成を進めていきたい。

9月25日(金)録画配信

3 パネルディスカッション「変化を起こす組織を作る」  
パネリスト:後藤 弘子 千葉大学大学院社会科学研究院教授       
     :入山 章栄 早稲田大学大学院経営管理研究科・早稲田大学ビジネススクール教授  
コーディネーター:安齋 徹  清泉女子大学文学部教授

上の段左から時計回りに、安齋氏、後藤氏、入山氏

 現在、高等教育機関が抱える課題を整理し、我が国において企業や地域との連携、SDGsの達成や国際貢献など様々な役割を求められている高等教育機関が、今後柔軟に変化していくための組織づくりについて女性活躍・男女共同参画の視点から検討した。
まず、各講師から発表があり、その後、意見交換を行った。

【後藤氏発表】
 後藤氏は、国立大学協会(以下、国大協)の男女共同参画小委員会の委員であり、大学では政務法務研究科研究科長として大学運営に関わっていた御経験から、我が国の大学等の高等教育機関の現状と学生と教職員のジェンダー平等がどれくらい確保されているのかについて、統計を用いて次のようにお話いただいた。
 女性の大学進学率は伸びてきていて半数を越え、短大を含めると男性より大学への進学率は高くなっている。大学や短期大学、専門学校、専修学校も含めると高等教育機関への進学率は男女でそれほど差はない。一方、専攻分野別は、2019年の学校基本調査によると看護や家政90%、養護教諭・幼稚園課程は特に女性が多く、工学は15.4%とかなり低く、学生の進学先に偏りがある。
 教員については、国大協の専攻分野別の女性教員割合は家政は55.6%であるのに対し、工学が6.6%とかなり低い。人文科学などの女子学生が多い学科でも女性教員割合は低く、家政学部の学生は100%女子なのに対し、教員は女性が半分でアンバランスな状況である。大学全体では、2020年の国の目標である女性の教員比が3割を超える大学は4大学のみである。旧帝大は女性割合が低く、特に東京大学については大学院の学生は高いが、学部学生は2割を切り、教員は1割も満たない状況である。
 2019年の上野千鶴子東京大学名誉教授による入学式祝辞が話題となったが、その中で、男性の価値と「成績のよさ」は一致するが、女性の価値である「かわいい」と「成績のよさ」にはねじれがあるとの指摘があった。姫野カオル子氏の著書「彼女は頭が悪いから」にあるように、彼女は頭が悪いからなにをしてもよいという「権力性の存在」が指摘されている。大学がランキングされ、男性と女性の価値が異なる性別のダブルスタンダードが大学でも拡大再生産されている。
 教員・職員の女性比を見ると課長相当職の女性は増えているが、教授は伸びていない。特に、非常勤講師の問題が大学では重く、本務をもつ非常勤講師が男女で大きな差がある。意思決定部門では、女性比率が10%であり、30%の目標に遠く届かない。国大協のアクションプランは目標達成できていないが、日本学術会議の会員の女性割合は3割を超えているのでやろうと思えばできるはずである。
大学におけるジェンダー平等の必要性は、学生にとって、女性の教員や高い立場にいるというのが当たり前の環境が提供され、こういう人になりたいというロールモデルを提供していることである。差別は権力性からくる。ハラスメントのない環境を提供することが重要であり、男女の価値のダブルスタンダードがハラスメントの根源になる。また、ダイバーシティによる組織力の強化、国際競争力をつけていくため、大学におけるジェンダー平等が必要であるとした。
 教職員や思決定部門の女性割合について、自然にほっておいてもいつになったら実現できるのかわからない。強制的にやる方法としては、男女共同参画社会基本法にポジティブアクション(積極的是正措置)があり、教授の採用について実施することは可能である。トップが変われば変わるから、副学長などトップレベルの半数を女性にすることは難しくない。よく女性に力がないからというが、力があるかどうか評価がダブルスタンダードである。男性社会の価値観に合わないからというが、その価値観を変えていく。企業や大学においても新しい価値に合わせて人材を登用していくポジティブアクションが必要と考える。

【入山氏の発表】
 大学や企業は、コロナ前から周囲の環境の変化が激しくなっている。民間企業では、先が見えない中、現状維持はありえない。デジタル化が急速に進んでいて、世界に合わせて変化せざるを得ない状況である。今後、日本のサービス業が崩壊する可能性がある。もともと日本は生産性が低いうえ、日本語というバリアにより国際競争にさらされていなかった。オンラインワーク・会議システムに自動翻訳機能が付くことにより日本語がそのままで伝わるようになる。オンライン教育は世界中で加速していて、サービス業の崩壊の第1位は大学であり、20年以内に半減する可能性もある。特に社会科学分野は国際競争にさらされることになり、大学も変化が必要となってくる。
 日本の企業で何故、ダイバーシティが全然進まなかったのか。それは経路依存性によるもので、世の中の仕組みとしては、様々な要素があり、それぞれが噛み合っているからうまく回っている。時代に合わないからと1つだけ変えようとしても、他の要素ががっちりと噛み合っているので変わらない。ダイバーシティを進めるためには、日本型雇用といわれる新卒一括採用や終身雇用、メンバーシップ型雇用をやめる必要があり、多様な人がいれば評価制度や働き方も変えるべきである。ダイバーシティだけやろうとしても難しく、他の要素を変えないと変わらない。
 今、コロナ禍になってリモートワークが定着し、成果をはっきりさせるための成果主義へ、メンバーシップ型からジョブ型雇用へ変化する。ここで変えられないと国際競争にも打ち勝てないし、ダイバーシティも進まない。日本の大学も、今が変えるチャンスである。そのために必要なことは、イノベーションの本質であるどんどん変化して新しい価値を生み出す人材を作っていくことである。シュンペーターのいう「既存知と既存知の組み合わせ」から新しいアイディアは生まれる。
 人間の認知には限界があり、目の前の知を組み合わせる傾向がある。何十年間も同じ組織にいて、そこの組み合わせが尽きるとイノベーションは生まれない。日本人の社会、組織全体が同じ傾向にあり、この状況を脱却するためには、離れた知と知の組合せをするExploration(知の探索)が必要となる。すなわち多様な知が組織に入ることが大事であり、ダイバーシティが求められている。中長期的に新しい価値を生み、イノベーションを起こすためには、ダイバーシティや男女共同参画が必要であるが、日本では、「何故」の部分に腹落ちが少ないので、まったく進まない。
 アメリカと日本の大学の違いは、競争と成果があるかないかである。アメリカは、成果主義、ジョブ型雇用であり、人種や性別も関係ないため、結果的にフェアな競争環境があり、実力のある女性が多く入ってくる。日本は、これからの大学の在り方から考えていく必要があり、そこまで考えないと大学はなかなか変わらないのではないかと締めくくった。
 安齋氏からの「日本の企業で変われる企業と危ない企業の違い」と「ダイバーシティが進むと、中長期的にイノベーションが進むが、短期的には軋轢を生むのか」について質問があった、入山氏は、「トップの在り方が重要であり、トップの思いがあるかどうか。また、ダイバーシティが進むと中長期的にイノベーションが進み、短期的には軋轢を生む。軋轢がないダイバーシティはありえない。多様な人が入ってくれば多様な意見や価値観があるので、そこに意味がある。日本は全会一致で決めようとするが、だれもが賛成している時点で、既にイノベーティブではない。そして、決めたら一緒にやることが重要である。どのような組織を作っていくのか、組織のビジョンがみんなの腹に落ちていれば比較的意見がもめても一緒にやろうかとなるが、日本はそのビジョンの腹落ちが弱く、もめると割れて派閥ができる」とした。

【安齋氏の発表】
 安齋氏は、企業と大学、海外と日本、地方と東京、公立大学と私立大学、共学大学と女子大学など多様な経験をお持ちで、大学教育の規制概念を壊すという視点から、学びの場を人材育成の場として奮闘されてきた取組について発表いただいた。発表の内容は次のとおり。
 現在、女子大学において、教室の外に出すということを意識して、これまでの大学で地域や企業と連携してきた。大学ではオンラインか対面かという議論があるが、陸前高田市との連携によるフィールドワークは行くことができないのでオンラインでやってきた。コンテンツ作りにおいて、オンラインでできることをとことんやってきた。オンラインか対面かというのは、小さな議論ではないかと思う。オンラインでもイノベーションは起こせる。

<ディスカッション>
 安齋氏:大学という組織の特殊性と抱える課題とは?
 後藤氏:企業と比較して、大学はより終身雇用制度が強い。トップは大学を変えないといけないことはわ
かっているが、憲法における学問の自由が教員のアイデンティティに絡みついていて、文部科学
省の施策や大学の自治も含め、経路依存性を解くことを邪魔している。
 入山氏:施策が縦割りのため、どういう人材を育成するかが文部科学省だけの視点になるので厳しい。これは大学の危機でもある。これから教育機関に民間が入ってくる。多様な人が集まっている民間のオンラインスクールやサロンのように、社会人教育を行っているところが潜在的にライバルとなる。大学を出る価値が薄らいできて、高専を出た人がAI人材となっている中で、根本的なところから文部科学省も含めて議論していく必要があると思う。学問の自由があってよいが、競争もなければならない。アメリカがなぜあれだけ学術分野が強いかというと、競争があるから。多様な人がいて、自由に研究してトップジャーナルに載せた人が生き残って、トップ大学に残れる。フェアな実力勝負なので、女性が台頭する。アカデミアの分野は、体力より脳内で勝負できる。

 安齋氏:大学で男女共同参画が進まない理由は?
後藤氏:男女で分ける意味はあるのか。何をもって男性、女性とするのか。LGBTQもある。日本では、
多様性といった場合に見えない差別が特徴であり、見ようとしなければ見えなくなっている。一番見やすいのが男女である。日本のように階級がない社会は見える差別ができないので、男女で女性を下位に位置づけざるを得ない。この仕組みは、明治政府が女性を差別するという秩序作り、見えない形で残っている。ダイバーシティはなぜ必要かと話しても、どうしてもわかってもらえない。その理由は日本の社会が変化したくないからであり、変化しない秩序を保とうとしていて、それを再生産しているのが大学ではないか。経路依存性をはずして、どうしていけばいいのか。灯りは見えたが、経路がみえないのが現状。
 入山氏:日本は明治以降、製造業(力仕事)が強かったので男性がよかった。欧米からきたものを大量に、質のいいものを安くあげるためには同質の人がよかった。その仕組みがずっと続いてきて、サービス業にも波及。経路依存性があるとなかなか変えられない。大学は国際競争にさらされていないため、地方の私立大学は学生が減って苦労しているが、都会の大学や国立大学は学生が来るから当面どうにかなると思っていて変わらない。

 安齋氏:大学のトップも年功序列的なところがある。トップもいろいろな課題にさらされて意識が変わる
が、トップとしての教育は学んでいない。トップの作り方とは?
 後藤氏:国立大学で医学部がある中堅の大学のトップは、医者の出身が多く、国際競争力にさらされていて視野が広いと思う。言語は英語であり、人体の構造が変わらないので、医者はどこへ行っても通用する。法律は日本語依存性が高く、日本の法廷は日本語で裁判しなれければならないし、翻訳にもバイアスがある。視野の広さとは何かというと、競争にさらされる経験が一つ。企業経験の有無など。どこかで競争にさらされる経験をした日本のトップはいないのではないか。競争にさらされても、その評価基準が偏っていると問題である。競争を買って出る、経験がある人を採用するしくみがあることが大事と考える。
 入山氏:男性教員は、自分がマジョリティーなので、マイノリティーの経験がない。マイノリティーにな
ってみることが大事である。子供の保護者会に出て、全員女性の中に一人になってみると、いか
に自分が辛いか、非常に違和感のある世界かなどがよくわかる。組織に多様な人がいることや個人が多様な経験や知見を持っていること、すなわちイントラパーソナルーダイバーシティ(個人内多様性)が高いことが大事である。現在、社会を変革するような人は、複数の業界を経験するなど多様な経験をしている人が多い。マイノリティー経験を含め、多様な経験をすると多様な組織を受け入れられる。
 後藤氏:競争も一つの経験であり、多様な経験が人を作る。日本の大学は伝統的に多様な経験をよしとし
なかった。その辺を変えていく必要がある。
 安齋氏:今、働き方改革により、時間・場所・組織から自由になり、コロナ後、副業などこれまでできな
かったことができるようになった。

 安齋氏:最後に、参加者へひとことメッセージをお願いしたい。
 入山氏:男女共同参画や多様性がつくりやすいのは、アカデミアだと思う。アメリカは女性がばりばり活躍している。知的産業は、体力関係ないから、一番変えやすいのは大学なのではないか。大学がよくなれば、日本の社会がよくなるのだと思う。是非、大学から変わってほしい。
 後藤氏:一人じゃない。その組織にはいなくても、どこかにいる。孤立すると視野も狭くなるし、希望ももてないので、いろいろな人とつながることが大事。コロナは、ソーシャルディスタンスではなくフィジカルディスタンスである。どこかに味方が居て、共感してくれる人がいる。大学をよくしたい。学生がいるので、多様な未来を描かせてあげたい。
 安齋氏:できない理由を探すより、どうすればできるか考える。学生が大人を見る4年間なので、そこで出会う教員や職員などから社会に出る前にすり込まれる。大学が変わらないと社会も変わらない。大事な機能を持っている。 

研修全体に対する参加者からの御意見

 ・講演・事例報告・パネルディスカッションのすべてがそろって、セミナーが完結したと感じた。講演では、海外の事例を列挙して理論的に語られ、事例報告では、日本国内で具体的に実践されている状況を伺い、パネルディスカッションでは、私たちの代表として各人の意見が披露された。この3項目がそろって完成されたセミナーだった。
 ・知らなかったことを知ることができた。新たな刺激を受けた(考える視点を増やしてくれた)。基調講演からは、組織や社会の土壌によって「参加しやすさの不均衡」が発生すること、そしてそれを問い直すときには、軋轢も生じるであろうことを学んだ。制度として明確にしなければいけないこともあることを感じた。事例報告では、教員のキャリアと能力を開発する取組をうかがうことができ、とても参考になった。(当人が力をつけて)資格を認定して、アンコンシャスバイアスが起きないようにする、という方法が印象的だった。パネルディスカッションからは、何のために変化するのか、をもう一度考えることとなった。全体としては、おぼろげながらに課題を認識しながらも、ダイバーシティとは何か、をもう一度問い直す経験ができたように思う。このたびは、企画の実施と配信をいただき、感謝申し上げる。
 ・どの講演も大変クオリティが高く、大変勉強になった。
 ・このような取組みが行われていることを知り、大変すばらしいと思った。今後、女性の活躍が進むことが期待されると感じた。
 ・パネルディスカッションを一番期待していた。その期待をはるかに上回るディスカッションだった。基調講演ではハラスメントという切り口からのダイバーシティを考え、事例紹介では参考になる事例がたくさんで、パネルディスカッションでは後藤先生、入江先生の多様性にまつわる意識の持ち方について、名言が多く生まれとても感銘を受けた。
 ・基調講演でのダイバーシティへの視点が、新鮮だった。
 ・多岐にわたり、かつ具体的な事例を知ることができた。また、学術面だけでなく、実践、企業などの事
例も知ることができた。
 ・プログラムについて:基調講演・事例報告・パネルディスカッションという3部構成がよかった。配信方法について:10日間のオンデマンド配信で、都合のよい場所・時間に視聴できるのがとても便利だった。内容:同質性(同属性)と多様性、経路依存性など、日頃感じている思いに理論的な枠組みをはめ込んで理解することができ、とても新鮮だった。
 ・ダイバーシティに関しての学術講演を聞いたのはこれが初めてであった。歴史的な経緯や同じ国立大学法人での類似の問題の存在を知ることが出来たし、これまでの漠然とした感じが明文化された印象が多々あった。
 ・大学組織にダイバーシティが必要とされる理由,また必要性を認識していても進まない理由の一端,また,各教育機関の先進的取り組みを知れたことで,所属組織のダイバーシティ推進のヒントを得た。
 ・今年度から男女共同参画WGの事務担当となったが、初めてでもあり、全く知識がない状態だったので、色々な話が聞けて大変参考になった。     

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