研修・イベント

研修

実施報告

2019年度「大学等における男女共同参画推進セミナー」

開催期間:2019年12月20日(金) / 定員:80名

開催場所:主婦会館(プラザエフ)9階 スズラン /


事業内容

高等教育機関の教職員を対象とした研修を実施。

【申込期間延長について】2019/11/28

申込期間を延長します。
申込締切 令和元年12月6日(金)⇒令和元年12月13日(金)
※定員に達した場合は申込を締め切ります。

【申込終了について】2019/12/13
申込期限となりましたので、申込を締め切りました。

1 趣  旨

 大学・短期大学・高等専門学校等の役職員を対象に、ダイバーシティの視点及び女性活躍・男女共同参画の推進の重要性とその意義について考え、参加者同士のネットワークの構築を目的としたセミナーを実施します。
 大学等が抱える女性活躍・男女共同参画の現状と課題を検討し、これからの女性研究者支援、そして大学等のあらゆる分野や職階への女性の進出がごく一般的なことになるにはどうすればよいのか、さらに、男性研究者、職員、ひいては学生といった大学構成員全体にどういった効果を与えるのかなど、課題解決のヒントを探ります。

2 テ ー マ

「女性研究者支援から広げる大学等の男女共同参画」

3 主  催

独立行政法人国立女性教育会館

4 後  援

一般社団法人国立大学協会、一般社団法人公立大学協会、日本私立大学団体連合会、
全国公立短期大学協会、日本私立短期大学協会、独立行政法人国立高等専門学校機構、
全国ダイバーシティネットワーク

5 会  場

主婦会館(プラザエフ)9階 スズラン
東京都千代田区六番町15  TEL:03-3265-8111

6 日  時

令和元年12月20日(金) 13:00~18:00

7 対象・定員

大学・短期大学・高等専門学校の役職員、男女共同参画に携わる教職員 
80名

8 日  程

9 内  容

(1)開会                               13:00~13:30
 主催者あいさつ・趣旨説明:内海 房子 国立女性教育会館理事長

(2)基調講演「大学等における男女共同参画の現状と展望」        13:30~14:20
 大学等に求められている女性活躍・男女共同参画推進の取組において、特に女性研究者支援とそれを推進するリーダーシップのあり方、そして今後の展望についてお話しいただきます。
講 師:岩渕  明 岩手大学長  
      
(3)パネルディスカッション「大学等が直面する男女共同参画を巡る課題の解決にむけて」 
                                    14:30~16:30
 近年、女性研究者支援や働き方改革により大学等の女性研究者が微増している一方、教授レベルでは顕著な伸びが見られないなど、職位や分野におけるジェンダー格差という新たな男女共同参画の課題も見えてきました。
女性活躍を進める上で大学等が直面する課題を見える化し、課題解決へのヒントを探ります。また、女性研究者が活躍できる環境を整えることが、男女を問わず教職員全体や学生、ひいては学内全体の活性化につながる可能性があることやそのための具体的な方策について考えます。
コーディネーター :伊藤 公雄 京都産業大学現代社会学部客員教授・ダイバーシティ推進室長、京都大学・大阪大学名誉教授
パネリスト:工藤眞由美 大阪大学理事・副学長
     :松原 洋子 学校法人立命館理事・副総長、立命館大学副学長
     :桒原  靖 独立行政法人国立高等専門学校機構執行調整役・理事長特別補佐

(4)アンケート記入                          16:30~16:35

(5)情報交換会(希望者のみ)                     17:00~18:00

10 申込方法・期限等

(1)方法  
 2019年度「大学等における男女共同参画推進セミナー」申込フォームよりお申込みください。国立女性教育会館のホームページの当該サイトからアクセスできます。

※記入事項に回答し送信ボタンをクリックすると、回答のコピーが指定したアドレスにメールで届きます。コピーが届かない場合は正しく送信されていませんので、必ず御確認ください。
※送受信の行き違いを防ぐため、FAXは不可とさせていただきます。
※申込フォームより送信できない場合は、別紙参加申込書(11月5日(火)9時より、ホームページからダウンロードできます。)に必要事項を記入の上、事業課に郵送ください。
※開催要項の電子データは、ホームページよりダウンロードいただけます

(2)申込締切 令和元年12月6日(金)(先着順)
※期間内でも定員に達した場合は申込の受付を締め切ります。

(3)参加通知
 御本人宛にメールにてお知らせします。12月13日(金)までに連絡がない場合
は、お手数ですが事業課(電話:0493-62-6724)までお問い合わせください。

11 所要経費

(1)参加費:無料
(2)情報交換会費:3,000円(税込み)
 ※情報交換会参加を希望する方が12月17日(火)以降にキャンセルされる場合は、参加費全額を御負担いただきますので御注意ください。

12 情報交換コーナー

 御所属の機関のパンフレットやちらしなどを自由に交換するコーナーを設置しますので御利用ください。

13 その他

 セミナー中、職員が撮影した写真を事業記録や広報のために使用することがあります。あらかじめ御了承ください。

2019年度「大学等における男女共同参画推進セミナー」実施報告

 令和元年12月20日(金)、主婦会館プラザエフ(千代田区)を会場に2019年度「大学等における男女共同参画推進セミナー」を開催し、全国の国公私立大学や国立高等専門学校等から96名が参加した。
 このセミナーは、大学・短期大学・高等専門学校の役職員、男女共同参画に携わる教職員を対象に、ダイバーシティの視点及び女性活躍・男女共同参画の推進の重要性とその意義について考え、参加者同士のネットワークの構築を目的としている。2019年度は「女性研究者支援から広げる大学等の男女共同参画」をテーマに、大学等が抱える女性活躍・男女共同参画の現状と課題を検討し、これからの女性研究者支援、そして大学等のあらゆる分野や職階への女性の進出がごく一般的なことになるにはどうすればよいのか、さらに、男性研究者、職員、ひいては学生といった大学構成員全体にどういった効果を与えるのかなど、課題解決のヒントを探るため実施した。

趣旨説明

内海房子 国立女性教育会館理事長

 開会では、内海房子 国立女性教育会館理事長が主催者あいさつ・趣旨説明の中で、我が国における男女共同参画の進捗状況の概略について、世界経済フォーラムが発表しているGGGI(グローバル・ジェンダー・ギャップ指数)やOECD(経済協力開発機構)による15歳の生徒の学習到達度調査(PISA)の調査結果に基づいて行った。
 GGGIにおける我が国の順位が、2018年は149か国中110位、2019年は153か国中121位と下がっている理由は、日本は政治分野や経済分野における男女の格差が大きく、2019年には教育分野の中の高等教育・中等教育に男女格差が生じているためとした。
 世界各国において女性の活躍がめざましく進んでいる中、我が国も一生懸命努力しているが、世界のスピードに追いついていない状況が指摘された。
 また、PISAの数学における男女の点数格差について、我が国の格差は年々縮まっているが、まだ格差のある国や女子が点数が高い国もある。女子の数学の点数が高い国はGGGIも高い国が多いことから、OECDでは数学の男女の点数格差は生物学的な性差ではなく、環境要因が影響していると理解しているとの説明が行われた。

基調講演

 続く基調講演「大学等における男女共同参画の現状と展望 -岩手大学の取組を踏まえて-」では、講師の岩渕 明 岩手大学長から岩手大学が行ってきた男女共同参画の推進のプロセスや成果、課題、展望について、次のようなお話をいただいた。

1 男女共同参画促進はProject-Driven  学長のリーダーシップと、推進する強力なリーダーの存在

 1999年に男女共同参画社会基本法ができた頃から、大学では外部の競争的資金を獲ってくるようになっていた。女性教員も競争的資金を獲ってきてプロジェクトをやるべきということになり、トライしたところから男女共同参画が始まった。
 このように、岩手大学では男女共同参画はプロジェクトをやるという意識が強い。プロジェクトの成功条件としては、①社会情勢を見極めるトップ、②リーダーの存在とトップによるサポート、③リーダーの強い意志とそれをサポートし実行していく仲間、の3点が重要と考えている。そのプロジェクトをきちんとやってくれるリーダーがいないと、学長がいくら笛を吹いてもだれも踊らない。岩手大学では、リーダーとなる教員がいてリーダーシップが発揮できた。同時に、リーダーの意志だけでは動かないので、トップのサポートが必要であり、リーダーの強い意志とそれを支える仲間がいないと孤立してしまう。
 今年、70周年を迎える岩手大学は、4学部5研究科をもつ総合大学である。学生・大学院生合わせて約5,500名、教職員が約1,000名の大学。女性比率は、学部生は39.3%、大学院生は26.5%、教員(役員を含む)は14.7%、職員は50.5%。農学部は学部生の約半数が女性であるにもかかわらず、教員比率は14.0%であり、問題であるとプレッシャーを掛けているが適任者が見つからないと言っている。理工学部は10年前まで0人だったが、今は8人となった。
 岩手大学は校是として「岩手の“大地”と“ひと”と共に」を掲げている。学長になって目指す大学像として「グローカル人材を育てるグローカルな大学。地域に根差して、世界に羽ばたく存在感のある大学」「復興」「様々な分野で地域を先導し、地域を変革していく大学」「岩手大学全体のアイデンティティを確立し、卒業生が誇れる大学」の4つの目標を挙げた。
 2009年には、①教職員の仕事と生活の両立できる環境を整備、②次世代を担う学生に向けた教育、③教員の教育研究活動の継続的な発展を支援、④協力と互恵の精神に基づく持続可能な共生社会の形成に向けた地域社会への発信、の4つの理念を掲げた男女共同参画推進宣言を行った。男女共同参画の推進体制として、学長の下に男女共同参画推進室がある。教職員は、室長と専任スタッフ、各学部の副学部長・評議員を含む室会議において、ワーク・ライフ・バランス、学生・研究者・地域の支援等を行う。学生は、男女共同参画推進学生委員会や、学内の一時預かりの保育スペースにおいて教員の子どもを預かってケアをする次世代育成サポーターがある。
 2010年には、北東北国立三大学(岩手大学、弘前大学、秋田大学)男女共同参画連絡会議を立ち上げた。続いて、我々がホップ・ステップ・ジャンプと呼ぶ3つの取組を行った。まず、ホップとして2010年~2012年に大学内における文部科学省女性研究者研究活動支援事業「共生の時代を拓くいわて研究者支援」、ステップとして2013年~2015年に岩手県内における同支援事業(拠点型)「いわての復興に貢献する女性研究者支援」、ジャンプとして2016年~2018年に岩手県と青森県における文部科学省のダイバーシティ研究環境実現イニシアティブ(牽引型)「ダイバーシティ実現で北東北の未来を先導」に取組み、S評価をもらった。しかし、全国ダイバーシティネットワークの東北の幹事校として東北大学と入っているが、予算が切れた後の支援をどうしていくかが非常に大きい問題である。

2 女性研究者支援の採用・登用の取組  インセンティブ→ポジティブ・アクションとOne-up 女性優先→無意識のバイアスの影響軽減

 牽引型連携の実施は、岩手大学が代表機関となり、弘前大学に青森をまとめてもらい、一関工業高等専門学校、八戸工業高等専門学校、東北農業研究センター、株式会社ミクニの6機関でコンソーシアムをつくり、運営委員会等を開催し連携している。この連携の中で、女性を増やしていこうとしても各機関の組織の独自性や、バックグラウンドが違う中で難しいこともあるが、実績としては女性研究者比率の向上、理工学部の女性教員増加、ポジティブアクションによる女性教授、女性部長・課長、理事・副学長への登用が進んでいる。
 女性研究者の採用・登用システムとしては、ポジティブアクションとして、女性限定・優先公募、准教授ポストを教授ポストで採るOne-Up公募制度、助教を対象としたウーマンテニュアOne-Up、研究スタートアップ支援、採用時点におけるダイバーシティレポート制度などがある。その他研究環境整備や研究支援として女性研究者Set Upプログラム等がある。
 教員採用にあたっては、「アンコンシャスバイアス:無意識のバイアス」への取組を弘前大学と連携しながら行っている。すべての教員人事の選考の際、選考委員長がダイバーシティレポートを書き、バイアスが掛かっていないという選考過程についての報告を行うことを制度化した。

3 男女共同参画推進の成果  →包括的、多面的な取組の重要性

 取組として「学生教育」「地域社会の先導」「教育研究活動支援」「両立支援」があるが、「両立支援」の中で内閣府の事業所内保育所として保育園を地元の銀行と一緒に作ったりしたことから、「くるみん」や「岩手県女性活躍認定」を受けた。「研究活動支援」では、支援を受けた女性研究者の科研費獲得実績などの業績が向上している。優秀な学生を「優秀女性大学院生学長表彰」で表彰するなどしているが、次世代の研究者をどう育てるかが大きな課題となっている。「いわて女性研究者支援ネットワーク」は、岩手県の中で情報共有したり、女性のキャリア形成支援リカレントプログラム等を実施した。働き方改革を含め、女性が独り立ちし、意志をもってきちんと会社で働くための講演などを行っている。

4 ダイバーシティ推進への展望 大学自身が文化として定着→働き方や人材育成のモデルを提示→地域社会を先導

 2019年9月にダイバーシティとインクルージョンのシンポジウムを開催した。SDGsに限らず、LGBTを含め、いろいろな人、国籍・宗教が違う中で組織を運営しなければならないということで企画した。今のレベルは、プロジェクトそのものの推進が大学のダイバーシティ推進になっているが、次のレベルは恒常的に構成員の意識改革をし、文化や常識になる必要がある。大学が変わることで地域を先導することができ、地域におけるダイバーシティの推進が可能となる。大学が変わることで地域を変えていくことができる。
 大学は、自分を守るという上では保守的な社会。ジェンダーや職制、教職協働といいながら教員が上と教員が考え、上下関係で仕事をしている。だめといいながら、人の個性だからなかなか変わらない。
 女性を増やさなければならいないという状況で、まずは構成員の中で「女性だから」と否定的に言わないことが大事。しかし、言う人には、今までの家庭や学校の教育の中でバックグラウンドに男女共同参画がないため、これからスマートな女性の出現・活躍が男女共同参画には必要ではないか。アンコンシャスであり、時間がかかるのではないか。
 日本の大学の役割としては、社会を変えていく必要がある。その中で、高学歴者を増やさなければならない。性別関係なく、修士、博士を増やし、研究者、企業等のリーダー、政治家になってほしいが、企業は大学卒業でよいという。みんなが高学歴を尊重する社会にならなければいけない。男性のアンコンシャスバイアスと女性だからといって辞める女性にもバイアスがあると思う。大学生は女性が強く、成績もよいのに、社会的あるいは家庭的な原因なのか、女性のアクティビティが社会から消えていく。多様性が社会を変えるという意識を植え付けていく必要がある。

 岩手大学の教職員は全体で1000人規模の組織だが、事務職員の半数は女性。女性職員が課長になりたがらず、逃げる人が多い。がんばるように言っても、管理職にならなくてもよいという女性が多い。事務職員を成績順でとると全員女性になりかねない。ダイバーシティを進めるため、20年後を考えて男性を採用したり、他大学出身者も入れる。ダイバーシティを作るということは、女性だけをとればよいということではないということを理解してほしい。
 学会の中で、そもそも女性研究者の絶対数が足りない中で、女性研究者をとりたくても獲れない。競争になる中で、東京から遠いと対象外となる。農学や機械では、これはと思う女性を10年かけて育てざるを得ない。
 令和の時代、家庭をもっても研究は楽しい職業といえるような21世紀型のライフバランスをみんなで考えていく必要がある。時間の距離が研究力ではなく、時間の余裕を生むことによってイノベーティブな研究が今後生まれてくると考える。環境を変えていく必要があると思う。
 最後に一番重要なのは、環境が性差を作っているという中で、数値はそうだが、そうなるためには歴史があり、その歴史を変えるためには時間がかかる。がんばる女性が一人でも二人でも出ることによって社会、あるいは大学は変わっていく。

パネルディスカッション

 続くパネルディスカッション「大学等が直面する男女共同参画を巡る課題の解決にむけて」では、女性活躍を進める上で大学等が直面する課題を見える化し、課題解決へのヒントを探り、女性研究者が活躍できる環境を整えることが、男女を問わず教職員全体や学生、ひいては学内全体の活性化につながる可能性があることやそのための具体的な方策について考えることを目的に実施した。
 コーディネーターに伊藤公雄氏(京都産業大学現代社会学部客員教授・ダイバーシティ推進室長)、パネリストに工藤眞由美氏(大阪大学理事・副学長)、松原洋子氏(学校法人立命館理事・副総長 立命館大学副学長)、桒原 靖氏(独立行政法人国立高等専門学校機構執行調整役・理事長特別補佐)を迎え、具体的な取組の発表や会場の参加者も含めた意見交換を行った。

<コーディネーター:伊藤氏>

コーディネーターの伊藤公雄氏

 まず、コーディネーターの伊藤氏から「なぜ、今、高等教育機関でダイバーシティなのか?」についてお話いただいた。近年、日本の企業の業績やGDPなどの経済分野、あるいは学術論文数が伸び悩んでいる学術分野の停滞の原因として、多様性を生かし切れない日本社会の在り方を指摘した。日本社会はものづくり時代の「成功体験」があったため、男性主導の均質型・中央集権型の組織中心からの組み替えができなかったと考えられ、今、必要なことのひとつがダイバーシティであり、ダイバーシティ戦略(特にジェンダー平等)が組織の活性化を生む可能性が高いとした。そして最後に、今、日本の学術・高等教育に求められるものとして「ふたつのG(Gender & Generation)」、すなわちジェンダー平等と次世代育成を強調した。
 続いて、各パネリストから大阪大学、立命館大学、高専機構の男女共同参画推進の取組が紹介された。

<大阪大学:工藤氏>

大阪大学の工藤眞由美氏

 大阪大学が4年前にゼロからダイバーシティ推進に着手した際、思い出されたのが大学の原点であった。1931年に地元政界・関西財界・市民の援助と強い熱意により「市民主導の帝国大学」として創設され、社会と共に創造する「阪大スタイル」で男女共同参画を推進することとした。
 大阪大学は、創立90周年に向けて設立したOUビジョン2021に基づき、社会変革を促進する世界屈指のイノベーティブな大学を目指している。その基盤として、ダイバーシティ&インクルージョンが不可欠と確信し、男女協働推進を最重点課題としている。2015年に西尾総長就任後、トップダウンとボトムアップによる教職協働の実施体制を一挙に整備した。最高レベルの審議・企画・執行オフィスとして、男女協働推進オフィスを設置。オフィス長の自身と、総長補佐4名、担当部課長から構成されている。他にダイバーシティ事業推進協議会、保育施設運営委員会、男女共同推進センターを設置。事務体制として企画部に男女協働推進課を新設した。
 さらに、女性研究者在職比率の低さという課題解決に向けて、数値目標を設定した。大きな課題、特に自然科学系、特に理工系の女性研究者の少なさが弱点。この分野の女性研究者を増やすために4つの柱からなる女性比率向上システムを設けた。
 大学内部のダイバーシティ環境を大きく変えていくためには、外の風を取り入れることが必要不可欠であると考え、2016年度に文部科学省の「ダイバーシティ研究環境実現イニシアティブ(牽引型)」に応募し、採択された。医療基盤・健康・栄養研究所とダイキン工業と連携したが、3機関とも自然科学系の女性研究者・技術者や上位職が少ないという共通の課題をもっている。プロジェクトの特徴は、大学、研究機関、企業の壁を越えて、女性研究者に多様かつ発展的なキャリアパスを提供する循環型育成。産学官連携による人材育成として、大阪男女協働推進連携協議会を設置し、大阪北部の北摂から大阪府、関西へと広範囲かつ広領域へ女性研究者循環型育成クラスターの創設・拡大を図り、協力機関も27機関に拡大した。
 産学クロスアポイントメントとして、全国に先駆けて、企業の女性研究者を助教として受け入れた。また、女性リーダーによる協働研究を支援し、協働研究のリーダーとなる経験をとおして研究マネジメント力が向上した。2018年から阪大女性研究者育成型マッチングファンド(産学協同研究)も実施。2019年度以降、産学共創教育による人材育成を強化。「女性エンジニアリーダー育成プログラム」「育休中キャリアアップ支援プログラム」は非常に好評であった。「女子大学院生と企業等との交流会」「大阪大学女子大学院生優秀研究賞」なども実施している。

<立命館大学:松原氏>

 立命館大学の松原洋子氏

 立命館大学の副学長である自身は、研究担当であり、ダイバーシティ・インクルージョン担当でもあり、両者は密接に関係している。今年、創立150年を迎える、地方の私立の総合大学である立命館大学は、建学の精神である「自由と清新」を重視した全学合意形成方式により、人事権は教授会にあり学長も手を出せない。選挙で決定される学部長は、理事を兼ねている。また10年毎に10年後の学園ビジョンをつくっており「学園ビジョン R2020」では研究高度化を目指している。2016年に文部科学省「ダイバーシティ研究環境実現イニシアティブ女性研究者研究活動支援事業」に3回目の申請により採択されたことがきっかけで男女共同参画宣言を行ったり、若手・女性研究者の支援にいろいろな施策を打って実績をあげたことが中間評価のS評価につながった。
 男女共同参画基本方針としては、①男女共同参画の実現に向けた意識改革と情報発信、②国際的視点を含めた男女共同参画に資する教育・研究の推進と研究力の向上、③学修・教育・研究・就業と家庭生活との両立支援、④人的構成における男女格差の是正、女性研究者の採用・上位職登用の推進、⑤女性研究者の裾野拡大の推進、の5つを掲げ、高校生から、大学生、大学院生、研究員、教員、役職者までを対象に、「女性研究者の裾野拡大」、「女性研究者のキャリアパスの実現」「ロールモデルとなる女性研究者の育成」に分けて実施している。
 また、ダイバーシティ推進体制は、研究部の政策の学長直轄のリサーチライフサポート室が中心となってやっており、定年退職者ポストの2年間前倒しによる女性枠設定や女性の上位職登用などの取組を行った。女性学部長は2018年0人だったが、2020年は4人になる予定。教育・研究と家庭の両立支援として行ったリサーチアシスタントの雇用経費補助の対象が当初は女性のみだったが、男性からクレームがあり、男性もいろいろな家庭の問題を抱えていて、同じように悩んでることがわかった。家庭の困難な状況を大学執行部に伝えられるようになり、研究政策、福利厚生、働き方にも繋がっている。
 立命館大学は、一人の中にいろいろな属性がある「一人ダイバーシティ」が寄り合って、多様性のある、活気のある大学を目指している。

<国立高等専門学校機構:桒原氏>

国立高等専門学校機構の桒原 靖氏

 高等専門学校は、15歳で入る5年一環の実践的技術者教育を行う高等教育機関である。国立高等専門学校は51校あり、現在、学生数は5万7千人、その約6割が就職し、就職率はほぼ100%である。残りの4割が進学し、進学先の多くは国立大学である。主な学科は、機械工学、電気工学、情報工学、土木工学、建築学科、経営情報学科、商船学科等。学生は本科卒業時に準学士、専攻科修了後は学士号の取得が可能である。平均的な高専は、学生数が900名程度、教員は約70名、女性教員は約1割の7,8名程度。事務・技術職員は約45名。女子学生は2割程度で、化学・生物系、建築・土木系、経営系等に多く在籍。教員組織は、大学と同様校長、教授、准教授、講師、助教、助手となっている。 女性教員割合は11%、女性教授職割合は4.3%、女性校長は51校中2名。女子学生は入学比率が23.1%、在籍比率が21.3%と着実に上昇してきている。しかし、令和元年6月にダイバーシティ推進宣言と男女共同参画行動計画を策定し、女子学生在籍比率30%以上、教員採用時女性比率を全体で30%以上、事務系女性管理職比率10%以上の増加を目指しており、大きな課題となっている。
 女性研究者支援の取組では、文部科学省の女性研究者支援事業やダイバーシティ・研究環境実現イニシアティブ(特色型)においてS評価を取得している。高専機構が取り組む55キャンパス活用同居支援プログラムは、全国に組織がある高専ならではの取組で大変好評である。その他、研究支援配置プログラム、ポジティブアクションがある。
 女子志願者を増やすための取組として、Robogals(ロボギャルズ)、Nit♡Kitガールズ、ガールズKOSENステイがある。奈良高専は、一般より高いハードルで女子推薦枠を作っている。また、理工系女子の育成の取組として、高専女子百科/高専女子百科Jr.、高専女子フォーラム、科学技術振興機構の「女子中高生理系進路選択支援事業」も行っている。

<意見交換>

 各大学、国立高専機構の取組紹介に続いて、コーディネーターの伊藤氏からの3つの質問にパネリストが答えるかたちで、意見交換が進められた。

伊藤氏:Q1 岩手大学も含め4つの機関はJSTのS評価をもらっている高等教育機関である。どの機関もいろいろな取組の中で動いているが、やっていく中でぶつかった問題、明らかになった課題とは何か?

工藤氏:すべては意志決定過程の女性の割合が低いこと。意志決定過程に女性がいれば相当変わるのではないかと思う。課題解決としては、総長がお手本を示した。総長補佐が40名位いるが、三人に一人は女性教授としたが、女性教授が足らず、今25%である。女性教授の人事については、まず、部局長の意識が変わるべきだが、みんなが意識がかわることはないので、先進的な部局長をロールモデルにして、協力してくれる部局長を見習うように伝えた結果、学内に女性教授がいない部局はなくなった。

松原氏:課題としては、立命館大学の大学院に進学する人を増やしたいし、ドクターを卒業した人が活躍してほしい。この10年間の取組で、科研費の採択額・件数は早慶に続いて私大3位。世界大学QSランキングでも日本の私立大学で3位になった。女性研究者を登用といったときに、率先して大学院に進学してもらわなくてはいけない。今の総長は、基本的に文系・理系ともみんな修士に行く、理系は博士まで行くという大学にすると言っている。学部卒が通用できているのは日本くらいであり、グローバル社会の中で管理職になる人材は修士卒位でないとだめだろう。そういうところを目標とすると自ずと研究大学になり、自ずと男子だけでは足りないので、構成員として女子が活躍するといったことを、総合的に取り組んでいくと考えている。

伊藤氏:日本の大学院があるところはみんなが共通に抱えている問題として、日本人学生が大学院に進学しなくなっているという状況がある。大学院の魅力をどう作るか。そんな中で、女子学生の出口の問題を含めて対応していくことが重要。

桒原氏:高専の課題は、高専毎の温度差が一番の課題と思っている。高専の場合、大学ほど規模が大きくないため、高専間の温度差がある。教員採用は各高専で行っており、女性研究者が一番少ないところは学内に2名、多いところは20名近くになる。同様に女子学生も平均で25%といったが、15%を切る学校もあり、40%を超える学校もある。

伊藤氏:Q2 職員や学生を含んだ上で、学内全体の雰囲気をどのように作っていくか。

工藤氏:大阪大学では女性技術職員の会が立ち上がって、全国初のネットワークを作ったと聞いた。技術職員は、教員と職員の間で大学の中でもあまり存在感がない。文科省のダイバーシティ事業は教員に限定されているが、各部局で女性教員、職員、学生、一体的にやった方がよいという自発的取組が阪大の中で増え、その成果の一つとして女性技術職員の会ができあがった。1つの部局の教員、職員、学生が共に悩みを語りあう改善計画をたてるのはとてもいいことと思う。

伊藤氏:学術研究補助職が、実は見えない問題としてある。URA(リサーチ・アドミニストレーター)の方や博士号を持っている人もいるが、ライブラリアン、テクニシャンの問題も男女共同参画の視点から考えることが大事。

松原氏:立命館は教職協働が身についている。教員と職員がパートナーとしていろいろな新しいことに挑戦して、実現していくというカルチャーがある。しかし、マンモス大学であり、キャンパスが分かれているので、大きな組織が免れない縦割り組織であり、横の情報共有がない。ダイバーシティ&インクルージョンは、横串で組織連携していかないとはじまらない話。横の連携で情報共有して、壁を越えているようなイシューについて、それをテーマとしてちゃんと意識し取り組んでいく。学生はまだまだこれからだが、おにぎりとお茶で研究者の話が聞けるというライスボールセミナーを実施。積極的に女性にも話してもらっていて、人気のイベントになっている。また、今、「知の見える化」をテーマにして、附属から大学院、さらに卒業生に至るまで、立命館ではこれをやっているという風にリアルにもバーチャルにも、研究面のグッドプラクティスを共有していくことを進めている。

伊藤氏:男女共同参画は、全部に拘わっているので、意識的に横串を刺しやすいと思う。

桒原氏:各高専の温度差については、機構本部として何をしなければならないか考えている。課題の顕在化が大事と考える。校長会で2つのことをやった。1つめは、女子学生の51校の入学比率の一覧表を作成した。各校長も知らない人が多く、学校に戻ってから取り組もうということになった。奈良高専の女子学生の推薦枠について高専内でも女子の優遇だという声があるが、校長会において理事長が、高専として当然進めるべきと伝えたことが課題の顕在化であり、機構の役割を示した。2つ目として、女子学生の入学者の確保と裾野の拡大といった学生をいかに育てていくかとしてのキャリア支援が繋がっていると思っている。高専女子フォーラムにおいて、キャリア支援と称して女子学生が日頃の研究成果を外向けに発表を行うため、準備を重ね、企業の人に接することが自信に繋がっている。成果を持ち帰って、小学生や中学生へ、学校やイベント会場、スーパーなどで分かり易い言葉で伝える取組を行って裾野拡大をしており、循環している。

伊藤氏:アンコンシャスな部分を可視化することで、動くところはあるのではないか。男女共同参画は、可視化できない部分が多い。

Q3 今後大学等において女性活躍、男女共同参画を進める上で必要なことはどのようなことか。

工藤氏:ネットワークが大事だと思う。同じもの同士がネットワークを作ってもだめで、やはり異質なもの同士がネットワークを作ってこそ力を発揮できる。大学は男女共同参画において地域のリーダーというのはまったく違うと実感した。企業と一緒にやっていると、いかに大阪大学が遅れているか分かるので、学内に向かってみんなで共有して、改善のエンジンになるのではないかと思う。

伊藤氏:大学間の違う分野の出会いが必要であり、業種間の違いがパワーになってくる。違うことが、実りを生む豊かさであり、ダイバーシティの本質であることを生かしていかなければならない。

松原氏:今、どこでも働き方改革で苦労されていると思うが、私大はあまりルール化されていなくてどうしようというところ。育児中の女性にはいろいろな役をさせないであげる、という忖度がある。身軽な男性基準の働き方ではだめであり、特に介護に関しては男性も苦労されている。心がけているのは、働き方改革とセットということである。会議は5時までに終わる、会議や業務を合理的に減らすなどにより、忖度されていた女性も普通に役職をやると、男性とっても母数が増えるから楽になる。みんなでワークシェアをしていこう。アドミニストレーションの負担は重大なので、働き方改革の波の中でワークライフバランスをみんなが享受し、効率的なパフォーマンスをあげていく工夫をしようと取り組んでいる。

伊藤氏:個人個人の事情が異なる中でやれる人はやれるということで、個別対応の中で育児休業を制度化した。情報を共有しながらきめ細かに対応することが男女共同参画では重要だと思う。

桒原氏:各機関の数値目標があり、国の男女共同参画基本計画にある自然科学分野30%という数値目標の意味をよく考えてみたい。数字だけが目標ではない。学生や研究者の目標値というのは、結局、学生が将来自分にとってよい道を探して欲しいためである。「学生にとって」が第一であり、学校にとっても女子学生や女性研究者が来れば、学校自体が活性化していく。一つの手段として数値目標があるのであり、自己目的化するのはおかしい。目標はターゲットではあるが、ゴールではない。ターゲットを定める理由や目的をよく理解する必要があり、男女共同参画を進めることが大事であり、広げていきたい。

伊藤氏:数字にとらわれて、実質を見失っている。

参加者からは、「現在における日本の男女共同参画の状況がわかり、非常に参考になった。」
「男女共同参画の現状および、各大学等の取組事例をご紹介いただき、大変参考になった。改めて、女性リーダー、女性視点が男女共同参画を推進していく上で必要であると、強く感じた。」
「後半のディスカッションのための情報提供がおもしろかった。立場の違う機関の立ち位置を知った」などの感想が寄せられた。

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