研修・イベント

研修

実施報告

2019年度「学校における男女共同参画研修」

開催期間:2019年11月21日(木)~22日(金) / 定員:50名

開催場所:国立女性教育会館


事業内容

男女共同参画の基本理念について整理するとともに、学校現場や家庭が直面する現代的課題について、男女共同参画の視点から捉え、理解を深める研修を実施。

すべての申し込みを締切ました。多数のお申し込みありがとうございました。

1.趣  旨

 初等中等教育諸学校の学校現場に存在する男女共同参画課題を把握し、それらにどのように対応したらよいのかを実践的に学ぶとともに、教職員自身のキャリア形成や働き方改革及び女性管理職の育成について、男女共同参画の視点から捉えて理解を深める。

2.主  催

独立行政法人国立女性教育会館(NWEC)

3.後  援

文部科学省 
独立行政法人教職員支援機構(NITS)

4.会  場

国立女性教育会館
埼玉県比企郡嵐山町菅谷728
TEL:0493-62-6724

5.期  日

令和元年11月21日(木)~11月22日(金) 1泊2日

6.対 象 者

(1)教育委員会職員
(2)教職員研修センター等の職員
(3)初等中等教育諸学校の管理職・教職員

7.定  員

50名

8.日  程

9.内  容

第1日 11月21日(木)

(1)開会
                                         13:00~13:15
主催者あいさつ:内海 房子 国立女性教育会館理事長              
オリエンテーション:櫻井 雅美 事業課専門職員


(2)講義「学校現場における男女共同参画課題とは~男女共同参画の視点を身に付ける~」
                                         13:15~14:15
 男女共同参画の推進は何故必要なのでしょうか。その基本理念を改めて整理するとともに、日本の男女共同参画がどのくらい進んでいるのかについて国内外のデータを用いて客観的に把握します。そして、学校現場や教育実践について男女共同参画の視点からどのように見直すのか考え、学校が直面する現代的課題を把握しつつ、教育における男女平等の重要性について解説します。
講 師:村松 泰子 公益財団法人日本女性学習財団理事長
          東京学芸大学前学長・名誉教授


(3)情報提供「教職員の働き方改革」
                                         14:15~14:50
 現在、教員の長時間労働は学校現場の大きな課題となっており、この解決に向けた方策について検討が進められています。文部科学省の最新の動向について説明を受け、今後の方向性について理解を深めます。 
講 師:弓岡 美菜 文部科学省初等中等教育局初等中等教育企画課専門官
          (併)地方教育行政係長(併)国際企画調整室国際企画調整係長


(4)講義・事例報告・ディスカッション
「女性教員の活躍推進と男女共同参画の職場づくりについて考える」       
【第1部】講義・事例報告                             15:05~16:15
【第2部】ディスカッション                            16:25~17:30
 小学校・中学校・高等学校のいずれにおいても、教職員全体に占める女性の割合に比べて管理職に占める女性の割合は低い現状にあります。この問題の背景や要因について、国立女性教育会館が全国約3,000校の公立小中学校教員を対象として平成29年度に実施した調査の結果を報告するとともに、女性活躍推進を含めた働き方改革の取組事例を紹介します。ディスカッションでは、教職員に根強く残る無意識の偏見、教職員自身の働き方などについて意見や情報を共有しつつ、女性管理職育成や業務改善を含む組織マネジメントについて考え、改善・充実の方向性を探ります。
講 師:飯島 絵理 国立女性教育会館研究国際室研究員
報告者:田原 優子 佐賀県多久市教育委員会教育長


◇チェックイン                                  17:30~18:30


(5) 見学「女性教育情報センター・女性アーカイブセンター展示室ツアー」(希望者のみ)
                                         17:40~18:10
女性教育情報センター・女性アーカイブセンター展示室をご案内しながら、NWECの収集・提供する初等中等教育諸学校現場に役立つ情報について説明します。
説明者:国立女性教育会館情報課職員


(6) 情報交換会 (希望者のみ)                        18:30~20:30
立食形式で夕食をとりながら情報交換と参加者同士のネットワークづくりを行います。後半は、意見交換のきっかけとして、母親や父親が抱える問題やこれからの時代のキャリア形成の在り方など、NWECで実施する様々な研修から見えてきた、子供たちをとりまく男女共同参画課題についての情報提供を行います。

第2日 11月22日(金)

(7)講義・授業参観・解説「みんな違ってみんないい~一人ひとりを大切にするためにお互いから学び合おう!~」
                                         9:00~12:10
会場:嵐山町立菅谷中学校
 人権感覚を身につけるためには、「多様性」を恐れないことと、「自分と異なるもの」を受け入れていく姿勢が重要です。ここでは、アクティブラーニングの手法を用いた多様性を認め合えるワーク(体験学習)の実際の授業を参観し、講義や解説を通じてこの授業のねらいであるダイバーシティ(多様性)意識醸成の大切さについて学びます。また、教職員自身にある無意識の偏見を探り、性別にとらわれない児童生徒一人一人がもつ個性や能力に応じた指導のあり方と教育課程への位置づけ、男女共同参画の基礎となる多様性のある社会と人権の尊重について考えます。
講 師:髙﨑 恵 オフィスピュア 男女共同参画政策アドバイザー 
         ワークショップデザイナー

  
◇NWECへ移動・昼食                              12:10~13:20


(8)パネルディスカッション「学校におけるダイバーシティ~多様な児童生徒への対応~」
                                         13:20~15:05
 学校の中で、ジェンダーにまつわる課題を抱えている児童生徒に対しては、教職員の適切な理解の促進と、その心情等に十分配慮したきめ細かな対応が必要です。ここでは、性同一性障害や性的指向・性自認に係るいわゆる「性的マイノリティ」とされる児童生徒、外国とのつながりを持つ児童生徒、虐待により心に深く傷を負っている児童生徒への対応などについての情報を共有し、男女共同参画の視点から、今後私たちが取り組むべき課題や学校と教育行政機関との連携のあり方について考え、課題解決に向けてのヒントを探ります。
コーディネーター:中光 理惠 千葉県柏市立西原小学校教頭
パネリスト:松尾 真治 岡山県倉敷市教育委員会人権教育推進室指導主幹
パネリスト:藤本 哲夫 神奈川県横浜市教育委員会日本語支援拠点施設「ひまわり」統括指導員
パネリスト:德山美知代 東京成徳大学応用心理学部臨床心理学科特任教授


(9)グループディスカッション「全体の振り返り」                 15:15~16:35
 2日間で学んだ内容について振り返り、自身の考えや意識の変容、見えてきた課題などについて共有します。また、課題対応のあり方について協議し、明日からの実践的取組について具体的に考えます。


(10)閉会・アンケート記入                            16:35~16:45

10.所要経費

(1)研修参加費   無料
(2)宿泊費     1泊1人あたり1,200円(前後泊も同様)
(3)情報交換会費  3,600円【希望者のみ】
(4)食費      朝食バイキング 880円
           昼食カフェテリア形式 560円~880円
           夕食バイキング 1,100円

 ※金額はすべて消費税込みです。

11.申込方法

(1)方  法
2019年度「学校における男女共同参画研修」申込フォームよりお申込ください。

※記入事項に回答し送信ボタンをクリックすると、回答のコピーが指定したアドレスにメールで届きます。
コピーが届かない場合は正しく送信されていませんので、必ず御確認ください。

※申込フォームより送信できない場合は、別紙参加申込書(9月24日(火)9時より、ホームページからダウンロードできます)に必要事項を記入の上、事業課に郵送ください。

※送受信の行き違いを防ぐため、FAXは不可とさせていただきます。

(2)申込期間
令和元年9月24日(火)9時~11月14日(木)17時
令和元年11月18日(月)12時まで延長いたしました。

※先着順のため、定員に達した場合は、期間内でも申込を締め切る場合があります。あらかじめ御了承ください。

(3)参加決定通知
参加申込書記載の連絡先に電子メールまたは文書にて発送します。11月18日(月)までに連絡がない場合には、お手数ですが事業課(Tel:0493-62-6724もしくはメール:progdiv@nwec.jp)にお問い合わせください。

12.その他

期間中、職員が撮影した写真を、事業記録や広報のために使用することがあります。あらかじめ御了承ください。

2019年度「学校における男女共同参画研修」実施報告

 11月21日(木)~22日(金)の1泊2日で、教育委員会や地方自治体の教職員研修センターの職員、初等中等教育諸学校の管理職・教職員等を対象に、2019年度「学校における男女共同参画研修」を実施した。
この研修は、男女共同参画の基本理念を整理するとともに、学校現場や家庭及び教職員自身が直面する現代的課題を男女共同参画の視点から捉え、理解を深めることを目的としている。
 当日は、全国から55名の参加者が集まり、地域や校種、業種を超えて交流を深めることもできた。

第1日 11月21日(木)
講義「学校現場における男女共同参画課題とは~男女共同参画の視点を身に付ける~」 

 研修は、村松泰子氏(公益財団法人日本女性学習財団理事長、東京学芸大学前学長・名誉教授)の講義から始まった。2018年の世界経済フォーラムのグローバルジェンダーギャップ指数や令和元年版男女共同参画白書等のデータを基に、政治分野への女性の参画や就労率や賃金、管理職への昇進等の経済分野で依然として格差がある日本の男女共同参画の現状が示された。この背景には、いわゆる「男らしさ」や「女らしさ」といった社会的・文化的に作られた性差であるジェンダーが深く関わっている。こうしたジェンダーは、「固定的な性別役割分担意識」へとつながっている。村松氏は、性別は個性の一部であること、それを否定するのではなく、性別にかかわりない多様性を認め、男女が社会の対等な構成員として、あらゆる活動において、一人一人が性別にかかわりなくその個性や能力を発揮して支える社会が男女共同参画社会であるとして、これからの人口減少社会はこうした「固定的な性別役割分担意識」から抜け出さなければ支えていけないと話された。
 さらに、こうした男女共同参画社会の形成において、学校教育は大きな影響力を持っているとも言及された。教育は他の分野に比べて平等と思われているが、大学進学率や学部の専攻、教員の担当教科等、まだ男女で差が見られる部分もある。学校の中では、子どもたちは、教員が教えようと思っていなくても、その言動や状況から様々なことを学びとる。この「隠れたカリキュラム」によってジェンダーが再生産され、個人の潜在的能力を阻んでしまったり、教職員自身のワーク・ライフ・バランスが子どもたちに影響を与えたりすることもあると解説された。
学校には、既存の価値観を変えられる力を持つ一方で、再生産する力も持ち合わせている。男女共同参画の実現のため、まずは子どもたちの目に映る教職員の世界を変えること、「男女平等を教える」のはもちろん大事だが、「男女平等に教える」ことをより意識化してほしいと話され、講義を終えた。

情報提供「教職員の働き方改革」

 続いて、文部科学省の専門官より、働き方改革について情報提供を行った。働き方改革の目的や改革を進める上でのポイントなどを30分で紹介し、質疑にも応じた。

講義・事例報告・ディスカッション「女性教員の活躍推進と男女共同参画の職場づくりについて考える」

 前半は、NWECの飯島研究員が、「学校教員のキャリアと生活に関する調査」の結果を元に、教員全体に占める割合に対して、管理職に占める女性の割合が低い現状や、その背景、なぜ女性管理職が増える必要があるのかについて講義を行った。また、8月に文部科学省で開催されたこども霞が関見学デーで「校長先生に女性が少ない理由」を子どもたちに聞いた際の結果にはアンコンシャスバイアス(無意識の偏見)の影響が感じられ、多くの参加者に衝撃を与えていた。
 続いて、田原優子氏(佐賀県多久市教育委員会教育長)より多久市教育委員会の取組の報告があった。多久市では、子どもたちの学び方改革と同時に、「教職員が生き生き働き子どもたちにとって身近な素敵な大人のモデルになる」ことを合言葉に、教職員の働き方改革にもICTを活用している。クラウド上での教材の共有やテレワーク等の具体的な実践が紹介された。田原氏ご自身が教育長になるまでのご経験も交えてお話しいただき、子どもたちのために、そして後に続く先生方のためにと、難しい課題も明るく前向きにとらえて実践されている姿に、とても勇気づけられた参加者が多かった。

 後半はグループディスカッションを行った。似たような校種や業種でグループを構成し、簡単に自己紹介したあと、女性管理職が少ない現状について、講義や報告を踏まえながら自身が経験したり、身近な所で見聞きしたりしたことをざっくばらんに話した。その後、女性管理職を増やすためにどんなアプローチが考えられるか、すぐにできることとやってみたいことを個別に付箋に書き出し、話し合った。
 どのグループも活発に意見交換する姿が見られ、「働き方を見直し、負担を軽減することで管理職が魅力的と思えるようにする」、「ロールモデルを示し、若いうちからキャリアビジョンを持たせる」、「女性にもリーダーや責任ある仕事を積極的に任せ、意欲を持てるようにする」といった意見が出された。

見学「女性教育情報センター・女性アーカイブセンター展示室ツアー」

 プログラム終了後は、希望者を対象に、会館内の女性教育情報センターと女性アーカイブセンター展示室の見学を行った。職員により、全国から収集した男女共同参画に関わる図書資料や11月12日から開催中の「女性と医学展」などの説明を受けた。

情報交換会

 同じく希望者を対象に、前半は立食形式で夕食をとりながら情報交換を行った。全国各地から集まった参加者はもちろん、企画委員や講師の方々も多数参加し、校種や業種を超えてネットワークづくりをした。
 後半はラウンジへ移動して、NWECが作成した村松氏の講義内容を盛り込んだ動画の紹介やNWECの研修事業から見えてきた子どもたちを取り巻く男女共同参画課題について、情報提供を行った。「アンコンシャスバイアス(無意識の偏見)」、デートDVやJKビジネス等の性暴力被害、子どもたちへの虐待の背景に潜む母親へのDVなどのほか、理系女子支援や企業での男女共同参画に関する取組などにもふれ、学校現場に存在する男女共同参画課題について考えるヒントを提供した。

第2日 11月22日(金)
講義・授業参観・解説「みんな違ってみんないい~一人ひとりを大切にするためにお互いから学び合おう!~」

 授業前の講義では、オフィスピュア男女共同参画アドバイザーの髙﨑恵氏より、平成25年から始まった鹿児島県男女共同参画センター主催「子どもたちの学びの広場推進事業」の取組が紹介された。この事業は、子どもの頃から男女共同参画への理解を深めるため、教育委員会と連携し、県内の小・中学校で、児童・生徒、教職員、保護者や地域住民を対象とした参加体験型のワークショップを一体的に実施している。人権問題というとややもすると他人事のように感じてしまうことが多いが、誰もが持っている性に焦点を当て、最も身近な人権問題について当事者意識を持って考えるという男女共同参画の学びを通じ、人権意識や男女平等意識の醸成を目指していることが話された。

 講義のあとは、嵐山町立菅谷中学校に御協力いただき、同校に移動し、髙﨑さんに1年生64名の生徒達を対象とした多様性を認め合うワークショップを実際に行ってもらい、参観した。
 今回のワークのねらいは、「性別にかかわらず、一人一人違っていて多様な存在であることに気づくこと」、「性別にかかわらず、人それぞれに個性や能力があることに気づくこと」、「自分も他者も大切にするアサーティブ・コミュニケーションの代表的なスキルである「Iメッセージ」を知ること」の3つである。
 このねらいにつながるアイスブレイクの活動から始まった授業では、髙﨑さんの指示を聞いて絵を描いたり、背中に貼られた印をもとにしゃべらずにグループに分かれるゲームをしたりする活動を通じて、生徒たちは、一人一人が違っていることや違いがあることのよさを体感しているようだった。また、そうした違いを尊重する方法として「Iメッセージ」や「傾聴」の仕方を伝え、体験活動後の話し合いや振り返りではその方法を用いて意見を伝え合った。発表した生徒一人一人の言葉を丁寧に取り上げ、男女共同参画や多様性の視座からコメントする髙﨑さんの言葉やまなざしはまさに人権尊重とはどういうことかを体現するものであり、学校で人権教育に携わる教職員にとっても必要なものだと参加者に感じさせたようだった。
 参加した生徒たちからは、「普段からIメッセージを使って自分の気持ちを伝えられるようにしたい」、「人はそれぞれ個性があり、考えていることが違う。それを交流し合うことで新しい発見や考え方が見つかる」などの感想が寄せられた。

パネルディスカッション「学校におけるダイバーシティ~多様な児童生徒への対応~」

 午後は、学校の中に存在する多様な児童生徒への対応について、ご自身もLGBTの生徒を担任された経験をもつ中光理惠氏(千葉県柏市立西原小学校教頭)のコーディネートでパネルディスカッションを行った。         
 まず、松尾真治氏(岡山県倉敷市教育委員会人権教育推進室指導主幹)より、「性の多様性を認め合う児童生徒の育成」に関わる取組が紹介された。倉敷市教育委員会人権教育推進室では人権教育の授業づくりや環境づくりをサポートしており、平成28・29年にはいじめの防止や人権教育の課題として「性の多様性」をテーマに小・中学校の先生方とともに研究を行った。性的マイノリティとされる児童生徒について個別に支援することは当然必要であるが、それにとどまらず、全ての児童生徒が性自認や性的指向の多様性について正しく理解し、自分たちの問題として考えることが重要との考えから「性の多様性を学び、自分たちの生き方を考える」ことを中心にすえた3時間の学習モデル(倉敷モデル)を作成し、学校で活用できるようにしている。また、こうした「性の多様性」を尊重する意識は授業だけではなく、人権を尊重する環境の中でこそ育まれるものであり、日頃の教職員の言動の見直しや、学校内の男女区分の再点検を行い、一人一人が大切にされる学級経営を進める中での素地作りが重要であること、違いを認め合い、「○○らしさ」でしばられない学校は、性的マイノリティを含めた全ての児童生徒が尊重される学校になり得ると話された。
 続いて、藤本哲夫氏(神奈川県横浜市教育委員会日本語支援拠点施設「ひまわり」統括指導員)からは、外国とつながりのある児童生徒への対応として、横浜市立南吉田小学校の実践が紹介された。同校では年々外国とのつながりのある児童が増え続け、ここ数年は全校児童の約6割を占めるまでになっている。藤本氏は今年の3月まで7年間、同校の校長として多様性のもつ豊かさを生かす学校づくりを進めてきた。着任した当初は、日本語や日本の学校の文化を知らずに困難を抱える児童生徒、学校の教育環境を心配する保護者や地域、対応に追われ疲弊している教職員など、多文化環境から生じる課題が多く見られたそうだ。しかし、藤本氏はその環境を学校のよさ・特色として発信していくことを中核に据え、市教育委員会に働きかけ国際教室担当の教員を増員するなどして日本語指導の充実を図るとともに、国際教室担当と学級担任が連携できるようにし校内職員の意識改革につなげたり、校内組織を再構築したりしながら、少しずつ課題を乗り越えてきた。また、今の学校や子どもたちの様子、学校がこれから取り組もうとすることなどを広く知らせることで、多文化環境に対する保護者や地域の不安を少しでも解消し、理解してもらえるように努めてきたと話された。最後に、藤本氏が、現在統括指導員をなさっている日本語支援拠点施設「ひまわり」についても紹介された。「ひまわり」では、日本語のわからない子どもたちが地元の学校に通いながら、週に3日、4週間「ひまわり」に通学し、日本語や学校生活について学べるように支援をしている。そこでは違っていることが当たり前で、その違いを超えて一生懸命つながり合おうとする子どもたちの姿には真の多文化共生のヒントがあり、これからの学校教育においても一人一人が探っていかなければいけない課題であると話された。
 次に、德山美知代氏(東京成徳大学応用心理学部臨床心理学科特任教授)が、虐待により心に深く傷を負った児童生徒の理解について、アタッチメント理論に基づきながら話された。子どもは、不安時に安心感を与える養育者の存在により、信頼感を形成していく。このアタッチメント関係は関わる大人それぞれに異なるもので、教員や保育士、パートナー等の新たなアタッチメントとの出会いで肯定的に変化することもできる。虐待を受けた子どもは不完全な養育とアタッチメントにより安心感が欠如しており、感情制御が難しくなっている。学校でこうした子どもたちと接する上では、まず子どもの負の感情を受け取る対話を重ね、関係性を築くことで安心感・感情制御の力の立て直しにつなげていくことが大切だと話された。また、子どもたちのサポートにはチーム学校として校内や関係機関との連携が求められているが、大人たち自身が多様性を理解し、人権を尊重しながら関わることが重要であるともお話しされた。
 その後のディスカッションでは、それぞれの取組についてさらに具体的に説明していただいたり、参加者からの質問に答えていただいたりした。最後に、コーディネーターの中光氏が、「どれもこれからの学校教育で避けては通れない課題。教師自身がいろいろな人がいて、いろいろな背景があると正しく知ることが大切。また、違いは豊かなものであり、自他ともに大切にというのが根幹。そのために男女共同参画の視点から考えることは有効である」とまとめ、充実したプログラムとなった。

グループディスカッション「全体の振り返り」

 研修のまとめとして、2日間の研修を通じ、気づいたことや学んだことを中心にグループでディスカッションを行った。
 本研修と通じ、参加者は「男女共同参画」の基本や現状、学校現場における課題の背景に潜む社会問題等について理解を深めるとともに、「働き方改革」や「女性管理職の登用」の意義など自分に引き付けて捉え、それぞれの立場からできることを考えたり、授業参観や児童生徒への対応の実践報告を伺う中で自身の子どもたちへの接し方を振り返ったりしながら、学校現場における様々な課題の解決に向けたヒントを得られたのではないかと考える。
 また、講師の方々の熱い思いに触れ、全国から集まった様々な立場の教育関係者との交流を通じ、多様な考え方を知り、現場で様々な課題に立ち向かっていくための力も得られたという声も多かった。
 終了後のアンケートでは、「男女共同参画について考えるよい機会をいただきました。教員として、姿であるべきものを伝えることの重要性を感じるとともに、管理職・教員としての生き方についても、若い先生方に伝えていけたらと感じました」、「男女共同参画を教えるにあたって、男女の平等を教えるのではなく、男女平等に教えるということをしっかりと持ち帰って実践につないでいきたいと思います。男女共同参画の視点の大切さ、これまで難しく考えすぎていたことへの気づき等が得られました。楽しみながら男女共同参画を推進していきたいと思います」、「女性管理職を増やすことが目的になりがちであるが、それは男女共同参画の一つの側面であることを改めて考える機会となった。児童生徒の教育に携わる教員全体の問題と捉え、研修の在り方を考えていきたい」、「男女共同参画の視点が多様性の中に潜む一つ一つの課題に有用であることに気付いた」、「未来に向けて学校の中から世の中の景色を変えていきたい」など、積極的に自身の行動につなげていこうとする感想が多く見られた。

研修・イベント